●:一次対象疾患 ■:二次対象疾患 ×:対象疾患ではない
1.同様事例等を把握について
1) これまで当協会にLeuを含めてタンデムマススクリーニングで分析されるアミノ酸、アシルカルニチンにおいて同様の事例に関するご相談をいただいたことはありませんでした。貴所からのご相談が初めてとなります。
2) 国内のタンデムマススクリーニング検査施設では、内部精度管理の一環として分析対象物質(Analyte)とその内部標準物質(IS)の信号強度をモニタリングされ、同一アッセイ内でのIS信号強度の変動が一定範囲内にあることを確認されています。従って、今回の貴所で発生したような新生児検体におけるIS信号強度の異常増加とAnalyteの濃度が著しい低下を認めるケースを経験された施設はなかったのではないかと推定されます。
2.原因について
1) 送付していただいたデータから、異常を示した検体は特定の採血医療機関で特定の日に採血された全検体であり、かつその特定の日の前後で採血された検体では異常が認められていないようです。また、検査日についてはデータはいただいてはいませんが、これら異常を示した検体と同時に測定された他の新生児検体や精度管理検体は問題なく測定されていることから、原因は検体にLeu-ISと同じm/zの物質が混入(汚染)しているものと考えられます。
2) 汚染の原因として、
① 採血前ろ紙の汚染:同一医療機関において異常検体採血前後で発生がないため、可能性は低い。(確認事項:採血前のろ紙の保管状況)
② 採血時の採血器具の汚染:同一医療機関では同一の採血器具を使用しているものと考えられることから、可能性は低い。(採血器具の使用状況、採血担当者で異なることはないかどうか)
③ 採血担当者による汚染:採血担当者が採血時に濾紙を汚染(確認事項:異常検体の採血日とその前後の採血日における採血担当者が同一かどうか、採血担当者の使用するグローブ:有無、使用消毒剤、クリーム使用等)
3) 対応策
① 貴所ではすでに異常を示した新生児検体についてLC-MS/MSによりMRMクロマトグラフィでLeu-ISと同じm/zを示す未知の物質を検出していることから(リテンションタイムがLeuと比較して早いことからより極性が高い物質と思われます)、さらにスキャン分析なども行うことにより、上記2)で汚染の可能性が特定できると、総合的にある程度候補物質が推定できるのはないでしょうか。
② ルーチン検査でこのような現象を認めた場合、その都度LC-MS/MSで確認して濃度を求めるべきですが、簡便法として全検体のLeu-IS信号強度の平均値から濃度計算をすることも可能と思われます。
1)TMSコンサルテーションセンターでお尋ね下さい。
2)症例は血中Phe値が120μmo/L以上ですので軽症の高フェニルアラニン血症と考えられますが、高フェニルアラニン血症の全例にBH4欠損症の鑑別が必要です。
・ 治療については4歳までは血中Phe値が240μmo/L以下であれば治療の必要はありません。
・ 乳児期早期に母乳で栄養されている場合は血中Phe値が240μmo/L以下でも乳児期後半に母乳が出にくくなり人工乳に切り替えたり、離乳食を始めると血中Phe値が上昇し、240μmo/Lを越えて治療が必要になる場合がありますので、1歳までは血中Phe値の測定が必要です。
3)新生児マススクリーニングで血中Phe値が120μmo/Lの高フェニルアラニン血症は全例にBH4欠損症の鑑別が必要です。
・ BH4欠損症の鑑別には、BH4・1回負荷試験は必須の検査ではありませんが、血中Phe値が720μmo/L以上の場合に実施します。
・ 精密検査の時か、遅くとも生後1ヶ月以内に血液・尿プテリジン分析と乾燥濾紙血ジヒドロプテリジン還元酵素(DHPR)活性の測定をしてください。
日本先天代謝異常学会編集 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン(本でも以下のサイトでもみられます)
http://jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2015.pdf
ページ11を参照ください。そこにすべて書かれております。それに従って下さい。
このお子さんはPheが2mg/dl(120 ?mol/L)ぎりぎりですので、Phe 6mg/dl未満ですので、BH4負荷試験不要です(判定出来ません)。ステップ1のみで良いと思われます。
メープルシロップ尿症疑いに関しては、生後4か月時に尿中有機酸分析を再検されて、異常がないことを確認されています。しかし汎アミノ酸尿が続いているため、その病的意義、今後の診断、方針についてのお尋ねです。全身状態、体重増加とも良好で、低血糖、アシドーシス、高アンモニア血症、肝機能障害は認めないとのことですので、臨床症状から先天代謝異常症を疑う所見には乏しいようです。
尿中アミノ酸の検査結果をもとに診断可能なアミノ酸の輸送障害としては、ハートナップ病(中性アミノ酸尿)、シスチン尿症(二塩基性アミノ酸+シスチン尿)、リジン尿性蛋白不耐症(二塩基性アミノ酸尿)、イミノグリシン尿症(イミノ酸+グリシン尿)などがあげられます。本症例は中性アミノ酸を主とした汎アミノ酸尿であり、ハートナップ病のほとんどは無症状であることから、鑑別に上がると考えます。ハートナップ病では尿中プロリンが増加しないとされており、血中トリプトファンが正常から低値であることも本症例の所見と類似しています。ただし、確定診断に必要な遺伝子解析を行っている施設が、先天代謝異常症関連では国内には見られません。ハートナップ病は、無症状で発見された症例のほとんどが、そのまま無症状で経過するといわれており、遺伝子解析の必要はないとの意見もあります。
もしハートナップ病であっても成人期までに神経症状などを呈する例も報告されています。汎アミノ酸尿であり何らかの原因で尿細管でのアミノ酸の再吸収が障害されているため、フォローは通常の発達フォローとして続けてはいかがでしょうか。
お尋ねのメープルシロップ尿症疑い例ですが、①尿中汎アミノ酸尿、②血中アミノ酸分析における分枝鎖アミノ酸の軽度増加とグルタミン酸の上昇、③尿中有機酸分析における非特異的な一過性の代謝物の増加を認めます。現在の臨床症状、検査所見からは積極的にメープルシロップ尿症を疑う根拠には乏しいと考えます。むしろ、周産期における何らかの一過性の負荷などによる変化の可能性が考えやすいです。臍帯けん絡、肝血管腫、門脈体循環シャントなども可能性としては考えられます。汎アミノ酸尿も母体への薬剤投与などの負荷で起こることがあります。尿細管機能の生理的な未熟性の可能性も考えられますが、成熟新生児で経験したことはあまりないように思います。どちらにしても病的意義は低いのではないでしょうか。同様の病態は肝不全によって生じることもあります。直接ビリルビン値の上昇や血液凝固異常などがないか確認されてください。
メープルシロップ尿症疑いについては、生後3ヶ月から6ヶ月時点で再度血液と尿中のアミノ酸分析を実施していただき、正常化を確認されてみてください。また、感染などをきっかけにアシドーシスや分子鎖アミノ酸の上昇がみられれば、やはり鑑別を進めることになることになると考えます。それまでは、感染症や嘔吐症などで受診時に、かかりつけの病院に血液ガスのチェックをお願いされておくとよいかと思います。
1.同様事例等を把握について
1) これまで当協会にLeuを含めてタンデムマススクリーニングで分析されるアミノ酸、アシルカルニチンにおいて同様の事例に関するご相談をいただいたことはありませんでした。貴所からのご相談が初めてとなります。
2) 国内のタンデムマススクリーニング検査施設では、内部精度管理の一環として分析対象物質(Analyte)とその内部標準物質(IS)の信号強度をモニタリングされ、同一アッセイ内でのIS信号強度の変動が一定範囲内にあることを確認されています。従って、今回の貴所で発生したような新生児検体におけるIS信号強度の異常増加とAnalyteの濃度が著しい低下を認めるケースを経験された施設はなかったのではないかと推定されます。
2.原因について
1) 送付していただいたデータから、異常を示した検体は特定の採血医療機関で特定の日に採血された全検体であり、かつその特定の日の前後で採血された検体では異常が認められていないようです。また、検査日についてはデータはいただいてはいませんが、これら異常を示した検体と同時に測定された他の新生児検体や精度管理検体は問題なく測定されていることから、原因は検体にLeu-ISと同じm/zの物質が混入(汚染)しているものと考えられます。
2) 汚染の原因として、
① 採血前ろ紙の汚染:同一医療機関において異常検体採血前後で発生がないため、可能性は低い。(確認事項:採血前のろ紙の保管状況)
② 採血時の採血器具の汚染:同一医療機関では同一の採血器具を使用しているものと考えられることから、可能性は低い。(採血器具の使用状況、採血担当者で異なることはないかどうか)
③ 採血担当者による汚染:採血担当者が採血時に濾紙を汚染(確認事項:異常検体の採血日とその前後の採血日における採血担当者が同一かどうか、採血担当者の使用するグローブ:有無、使用消毒剤、クリーム使用等)
3) 対応策
① 貴所ではすでに異常を示した新生児検体についてLC-MS/MSによりMRMクロマトグラフィでLeu-ISと同じm/zを示す未知の物質を検出していることから(リテンションタイムがLeuと比較して早いことからより極性が高い物質と思われます)、さらにスキャン分析なども行うことにより、上記2)で汚染の可能性が特定できると、総合的にある程度候補物質が推定できるのはないでしょうか。
② ルーチン検査でこのような現象を認めた場合、その都度LC-MS/MSで確認して濃度を求めるべきですが、簡便法として全検体のLeu-IS信号強度の平均値から濃度計算をすることも可能と思われます。
1. アルギニノコハク酸の測定について
アルギニノコハク酸ですが、もしも血中・尿中に存在すれば、 HPLCを用いた通常のコマーシャルの血漿および尿中アミノ酸分析で検出されるはずです。しかし、現在、ルーチンではその報告業務を行っていないようです。そのため、確実なのは、福井大学の重松教授にお願いし、濾紙血中のアルギニノコハク酸を誘導体化法という良好な感度が得られるタンデム質量分析法で測定していただくことだと思います。現在、誘導体化法で測定できる施設は限られています。
2. オロト酸測定について
尿素サイクル異常症の場合、オロト酸測定は、高アンモニア血症に至る可能性があるかないかの判定に非常に有用です。そのため、現時点で高アンモニア血症に至っていない場合でも、シトルリン高値であれば、尿中オロット酸を測定する価値があります。是非、尿中有機酸分析を行って下さい。
3. 遺伝子診断について
まず、遺伝子診断の前に鑑別診断を進めてみたいと思います。
この時点でシトリン欠損症はまだ否定できていないと思います。私の経験では、新生児期にシトルリン(Cit) 600μmol/Lまで上昇したシトリン欠損症の患児もいましたので、Citの値での鑑別は難しいと考えています。そのため、まずは、お手持ちのアミノ酸分析のスレオニン(Thr)とセリン(Ser)を確認して頂き、Thr/Ser比を計算して下さい。これが 1.0を大きく越えていたり、グルタミン(Gln)が低値だったりすると、シトリン欠損症が疑わしくなります。これらのアミノ酸は頂いたデータには記載されていませんでしたので、どうぞよろしくお願い申し上げます。さらに、ガラクトース値の確認、AFP値の確認、脂肪肝の有無(肝エコーや肝CT)、凝固異常の有無、低タンパク血症の有無、高乳酸血症の有無などに関して御確認いただき、身長体重と各検査データの推移(黄疸の悪化がないかも含めて)を、定期的にチェックしていただければと思います。私はシトリン欠損症の可能性は十分にあると思います。
尿素サイクル異常症に関しましては、フルで母乳栄養を行っている状況で高アンモニア血症がありませんので、典型的なものではないことは確かです。ここで尿中オロット酸の測定が意味を増します。もしもオロット酸が陰性であれば、古典的シトルリン血症I型は考えにくくなります。アルギニノコハク酸を前述の通り測定して頂き、これも陰性であれば、アルギニノコハク酸尿症も考えにくくなります。
そこで、全身状態が安定しているようですので、まずは無治療で経過観察を行い、前述の血液検査の定期followをお願いします。定期followの中で、アンモニアを含む一般検査、凝固はすべて正常で、シトリン欠損症が否定され、Cit高値のみが続いて一過性高シトルリン血症も否定されれば、一番疑われるのは、シトルリン血症I型のヘテロ接合体だと思います(良性持続性高シトルリン血症という言葉はありませんが、それに近いと思います)。その段階で初めて遺伝子診断に進まれても遅くないと思います。その場合は、「シトルリン血症I型疑い」として、AMED深尾班を通して、かずさDNA研究所に依頼して下さい。これは保険収載されていますので金銭的な心配はありません。詳細は以下のホームページをご覧下さい。
http://www.jsiem.com/dna.html
この患者がシトリン欠損症と考えた場合、すでに高アンモニア血症などをきたしていることを考えると、シトルリン(Cit)はもっと高値を示すと思われますが、値だけでの鑑別は困難です。
ただし、添付されたアミノ酸のデータからはCit以外にもTyr、Glu、ASA、Orn、Met、Argがカットオフ値を超え、Pheも正常上限に近い値を示す一方で、Val、Leuといった分岐鎖アミノ酸は正常下限?低値を示しています。Ileの値が不明ですが、おそらくFisher比は低値であり肝不全の状態にあると推察します。
シトリンは肝ミトコンドリアに存在するアスパラギン酸・グルタミン酸輸送体です。シトリン欠損症ではアスパラギン酸がミトコンドリアから細胞質へ輸送されず、尿素サイクルにおいてアルギニノコハク酸(ASA)合成酵素の活性低下を引き起こし、高アンモニア血症を来すと考えられており、本患者におけるASAやそれに引き続くArg, Ornの増加は病態と矛盾するようと思われます。肝不全による尿素サイクル機能の低下から、Citやこれらの代謝産物が上昇しているのではないかを第一に考えます。特にシトリン欠損症の場合、アミノ酸分析でThr/Ser比の上昇があると診断的価値が高いとされますが、これらの値がどうか、画像で脂肪肝の有無なども確認してください。
その他、腎機能障害があるとCit高値を示すという報告もあります。これらを検討したうえでも鑑別が難しければ、最終的に遺伝子解析が必要になる場合もあるでしょう。
多彩な基礎疾患を背景に持つ早産児の肝不全の原因としてシトリン欠損症と暫定診断されている症例です。
生後3ヶ月の血液アミノ酸分析結果からは肝不全の所見を認めますがシトリン欠損症に特徴的な結果を認めません。
具体的には、
1)シトルリンの上昇が正常上限を軽度上回るレベルですが、フェニルアラニン、アルギニン、オルニチン、リジンなど の上昇の方がシトルリンより明瞭です。このようなアミノグラムのパ ターンはシトリン欠損症(NICCD)では通常ありません。全体的に 高アミノ酸血症であり、その中でのシトルリン上昇は非典型的で す。
2)スレオニン/セリン比がほぼ1であり、シトリン欠損症 (NICCD)で肝障害が進んだ段階でこのような結果は考えられません。現時点の臨床情報ではシトリン欠損症の可能性は極めて低いです。
新生児マススクリーニングの再検結果がどうであったかが示されており ませんが、断片的な検査結果と臨床経過からは極めて重篤な肝不全で す。肝移植の可能性も考慮して専門施設(小児肝臓疾患)での検査治療 が必要な状態と判断します。
今後の精査の過程でシトリン欠損症が鑑別診断の必要性でてきた 場合は、遺伝子検査を検討ください。
シトルリン血症1型の典型例では100μmol/L以上の高値となることが多く、シトルリン血症1型のためのスクリーニングのカットオフ値も100前後に設定されている施設が多い状況です。しかしながら、二次対象疾患のシトリン欠損症のために40μmol/L前後をカットオフ値としている施設で、スクリーニング時のシトルリン値が40から100μmol/Lの例はシトルリン血症1型の保因者であったとの報告が多いようです。しかしながら、100μmol/L以下でもシトルリン血症1型と診断された例も報告されています。
再採血時データでもシトルリンが貴施設のカットオフ値以上であるならば、、精密検査対象児として判断すべきと考えます。
1.高チロシン血症1型について
スクリーニング指標として「チロシン」を採用すると、カットオフ値の設定が困難であり、サクシルアセトンを測定するキットでないとスクリーニングは難しいと思われます。欧米に比べ、日本では本症患者頻度が著しく低いので、新たにキットを購入して行うことは費用対効果の面が極めて悪いことになります。自治体が検査費用を負担して行う方針という場合、Perkin Elmerrのキットが用意されています。
2.高アルギニン血症について
アルギニンのタンデムマス測定によってスクリーニング可能です。わが国では患者頻度が著しく低く(200~300万人に一人)、またもし患者さんが見つかっても有用な治療法が確立されていないことが対象疾患から外されている理由です。
厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究「タンデムマス導入による新生児マススクリーニング体制の整備と質的向上に関する研究」の報告書によると、わが国では、これらの2疾患は2次対象疾患からも外すことが提言されています。その報告書を添付いたしますのでご覧ください。
C3, およびC3/C2比がカットオフ値を超えた場合、これらはプロピオン酸血症やメチルマロン酸血症のマーカーであるため、尿中有機酸分析による鑑別診断が必要です。症状がない場合でも、軽症型やビタミンB12欠乏の可能性があり、治療の有無を考える上でも診断が必要です。精査時には一般検査の異常の有無を確認することも重要です。一般検査の内容や精密検査への流れ、診断後の治療やフォローに関しては『新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2015』<日本先天代謝異常学会:http://jsimd.net/pdf/newborn-mass-screening-disease-practice-guideline2015.pdf>を参考にしてください。
まず、日齢5のTMS1回目のデータは「偽陽性」ではなく、「陽性」です。「スクリーニング陽性」とは疾患であることを診断したわけではなく、あくまでも「スクリーニング検査が陽性」という意味です。今回の症例は、後述するように軽症プロピオン酸血症である可能性が高く、「偽陽性」とはいいません。
さて、タンデムマスのC3、C3/C2、そして尿中有機酸分析から、ベースに軽症プロピオン酸血症があるのは間違いないと思います。確定診断は、軽症プロピオン酸血症の場合はPCCB遺伝子のp.Y435C変異という軽症変異が知られておりますので、まずはそれを確認するのをお勧めします。p.Y435C変異であれば、酵素活性の測定も不要です。逆に p.Y435C変異でなければ、PCCAを含む遺伝子解析を行い、 PCC酵素活性の測定を行う必要があります。
今回の患者さんに関しては、メチルクエン酸に比してメチルマロン酸上昇が目立たなかったので、「メチルマロン酸血症」ではなく、「メチルマロン酸の軽度排泄増加」という表現になったのだと思います。なお、古典的なプロピオン酸血症であれば、下流にあるメチルマロニルCoAは減少し、メチルマロン酸が排泄されることはないはずですが、今回は軽症例のため、残存酵素活性がかなりあり、下まで流れていくのだと考えられます。
メチルマロン酸上昇の原因としましては、ビタミンB12不足が最も考えられます。本患児でも、軽度低値であり、それが原因なのでしょう。しかし、メチオニン上昇を伴わないタイプの広義のホモシスチン尿症(高ホモシステイン血症)が隠れている可能性は否定できないので、血中総ホモシステインの測定が必要です。
今後のフォローとしましては、お考えのように、ビタミンB12を数週間内服して、尿中有機酸分析を再検してください。その際に、血中ビタミンB12もあわせて再検していただき、正常化していることの確認もお願いします。
プロピオン酸血症の遺伝子検査の実施施設につきましては日本先天代謝異常学会ホームページの「精査施設一覧」>「3.有機酸代謝異常症」を参照にしていただくとよいと思います。
結果のでる日数については、遺伝子検査で解析する範囲が遺伝子の翻訳領域全体なのか、特定の変異のみ(例:軽症変異とされるPCCB p.Y435Cのみ)なのかによって解析にかかる日数が違います。一般に遺伝子の翻訳領域全体解析の場合には数か月かかります。特定の変異のみの場合には数日から月単位です。個々の検査室の事情がありますので、直接依頼先に確認していただければ、目安の日数を教えていただけると思います。
検査データを拝見すると、C3/C2の上昇を認めるものの、C3はカットオフ以下で体重増加も良好のようです。C3の上昇かつC3/C2の上昇を認めた場合にはメチルマロン酸血症、プロピオン酸血症の鑑別を行うために尿有機酸分析を行います。本症例ではタンパク負荷も十分に行われている状態でC3の上昇を認めないことから、正常の可能性が高いと考えられますが、尿有機酸分析を行ったうえで判断されてはいかがでしょうか。
精密検査の必要性についてもお尋ねがありますが、生後1か月の受診時に行われた診察と検査がマススクリーニングの精密検査に該当します。その時に尿有機酸分析まで行うことで、早期に診断を確定し不必要なフォローを減らすことも大切です。
提示されたC3, C3/C2はプロピオン酸血症の典型例や最軽症型と言われる症例よりも低い値です。何度か再検査するのも、親の不安を募らせますので、一度精検で尿有機酸分析をおこなって、プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症のパターンかどうかを判定しておくのがすっきりしていいと思います。
すでに尿中有機酸分析を行われており、C5-OHでスクリーニングされるマルチプルカルボキシラーゼ欠損症、メチルクロトニルグリシン尿症、HMG-CoAリアーゼ欠損症は否定的であり、2次対象疾患のβ-ケトチオラーゼ欠損症もスクリーニング可能な重症型は否定的です。ビオチン欠乏でも尿有機酸分析で異常がみられます。種々の検査を繰り返す必要はなく、この対象のお子さんは異常なしとしていいと思います。ただご指摘の通りで、血清でC5-OHを測定して正常域であることを確認することは上記の結果を強く裏付けてくれると思いますので検査されてもいいと思います。もし血清でも少し高い場合はメチルクロトニルグリシン尿症のヘテロ保因者の可能性があります。しかしこれは発症しませんのでやはり異常なしでいいと思います。
C5-OH高値で本人が有機酸分析で正常で、母親が3-メチルクロトニルグリシン尿症の患者である例があります。母親に十分に説明し、希望があれば、メチルクロトニルグリシン尿症である可能性について確認するため、母の尿有機酸分析を実施することも選択肢と考えます(しかし本症例のC5-0Hの値は母の疾患を疑うほど高くないという専門家の意見がありました)。
C5-OH高値は、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症(ビオチニダーゼ欠損症を含む)、メチルクロトニルグリシン尿症、HMG-CoAリアーゼ欠損症、β-ケトチオラーゼ欠損症の指標として用いられております。そのため尿の有機酸分析で問題なければ、尿有機酸分析が非発作時であってもまずこれらの疾患は否定されます。このようにC5-OHが軽度上昇しているが、尿有機酸分析で正常な場合は問題無しとしていいと一般的には考えられます。
湿疹もひどいということでビオチニダーゼ欠損症の可能性を考えていただいたのですが、尿有機酸で所見なければ否定されると思います。
1) 母がメチルクロトニルグリシン尿症であるなど場合もありますが、この子は新生児ではないので其の可能性もないでしょう。
2) 低出生体重児などでは、体重増加して再検時からC5-OHが高値となることが知られており、成長に伴うビオチンの一過性欠乏などが疑われますが、この子は既に6歳なので、いくら低出生体重児であっても考えにくいと思います。
3) その他の可能性としてはメチルクロトニルグリシン尿症などの保因者である可能性があります。
4) 食事性ビオチンの欠乏でも尿の有機酸分析は異常を来すことが多く、偏食なく食べていると言うことで可能性は低いと思います。この場合は新生児マススクリーニング対象疾患ガイドライン2015の102ページにあるようにビオチン100μg/日内服してみるのも1案と思います。
TMSコンサルテーションセンターよりホームページ掲載の『C5-OHが陽性になった場合の対応や精密検査について』を参照願います。相談内容の3点について回答いたします。?現時点で追加すべき検査:質問内容の検査で十分です。血中アンモニアと乳酸は採血手技の影響を受け易いので注意が必要です。
?尿中有機酸分析で診断確定しなかった場合:
軽度のC5-OHの上昇では尿中有機酸分析での異常を認めないあるいは軽微な異常に留まる可能性が高いです。赤血球内に残存するC5-OHを測定してしまうろ紙血での再検査は適当ではないです。血清アシルカルニチン分析を行い真にC5-OHが上昇しているのかを確認するべきです。
?診断確定後の治療方針(紹介先、追加検査など):
都道府県あるいは政令指定都市単位での先天代謝異常症マススクリーニングの中核医療機関およびコンサルタント医師を指定することになっています。診断確定後はそれぞれと相談し治療方針を決定するのが正規な進め方です。その間に困難が生じればあらためてTMSコンサルテーションセンターへ相談をお願いします。
低出生体重児が成長過程で離乳食への移行が順調に行かず体重増加不良を伴ってくるとC5-OHが高値を示すことをしばしば経験します。ビオチン欠乏症がないか、例えば頑固な湿疹や脱毛などの症状はないかを観察します。臨床症状より欠乏症が疑われる場合は、ビオチン補充を開始するのが治療的診断になります。またろ紙血のみの再検査は無意味であり、血清C5-OH測定や尿有機酸分析を行い先天代謝異常の可能性を検討することが必要です。メチルクロトニルグリシン尿症(3MCC)、マルチプルカルボキシラーゼ欠損症(MCD)がC5-OH上昇の代表的疾患であり、尿有機酸分析にて原因となっている物質を確認します。MCDではホロカルボキシラーゼ欠損とビオチニダーゼ欠損が原因となる病型があり、後者ではビオチン欠乏に伴う皮膚症状が特徴です。尿有機酸分析結果によってはビオチニダーゼ酵素活性測定が必要となります。体重増加不良に伴う慢性的な異化亢進状態がないか、血中アミノ酸分析やケトン体分画(血糖値と血液ガスと同時に)の評価も病態の考察に役立ちます。タンデムマス分析と同時に尿有機酸分析を行いながら基礎疾患の除外を行います。その過程でHMG CoA lyase欠損症、βケトチオラーゼ欠損症、3-メチルグルタコン酸尿症、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸尿症など稀な疾患も鑑別可能です。
[1]初回濾紙血検査でC5-OHが陽性であった場合:
(1)C5-OH>2.0μMなら、直接精密検査で精密検査医療機関受診を指示。医療機関では、?児について、一般生化学検査(乳酸・ピルビン酸、アンモニア、血糖など)と、外注検査(尿有機酸分析)を実施し、ヒドロキシメチルグルタル酸尿症、複合カルボキシラーゼ欠損症、3-メチルクロトニルグリシン尿症の鑑別を行う。初回濾紙血で遊離カルニチン低値となっていた場合はカルニチンを服用させ、その後外注検査(血清カルニチン分析)でカルニチン欠乏が改善しているか確認する。?児が患者でなければ、説明と同意を踏まえ、母親が3-メチルクロトニルグリシン尿症である可能性について確認するため、母の外注検査(尿有機酸分析)を実施する。児のカルニチン値が低い場合は、母の血清カルニチン分析も実施し、カルニチン欠乏があればカルニチンを投与する。
(2)C5-OH<2.0μMの陽性なら、再採血濾紙検査とし、再度陽性であれば精密検査の上記手順を実施する。
[2]初回濾紙血ではC5-OHは陰性であったが、低体重やその他の理由での再採血検査で陽性となった場合:
再度濾紙血を要請することなく、精密検査とする。精密検査医療機関では、外注検査(尿有機酸分析)を実施し、対象疾患の鑑別診断をおこなう。このような場合、治療を要しない軽微なビオチン欠乏がほとんどである。
<濾紙血検査でのC5-OH値の評価について>
濾紙血分析は全血分析であり、赤血球中のアシルカルニチン濃度を強く反映する。赤血球膜におけるカルニチン・アシルカルニチンの輸送は一般的に緩徐であり、特に長鎖アシルカルニチンや水酸基を有するアシルカルニチン(C5-OHなど)はほとんど細胞外へ輸送されないと考えられている。赤血球内のアシルカルニチンは赤芽球ミトコンドリア内代謝に由来し、ビオチン欠乏が生じるとその時期に合わせて赤芽球内にC5-OHアシルカルニチン(3-hydroxyisovalerylcarnitine)が蓄積し赤血球内に留まり、循環血中に赤血球寿命に対応してC5-OH濃度上昇を維持することとなる。このため、現状のビオチン欠乏や代謝異常を評価するには、赤血球を含む濾紙血での検査は適切ではなく、赤血球を含まない血清(血漿)でのアシルカルニチン分析でC5-OH濃度を測定すべきである。低出生体重児のビオチン欠乏を評価するために濾紙血での検査を繰り返すことは百害あって一利無しである。また、上記代謝異常症のビオチン治療評価についても、血清での検査を行うべきである。尿有機酸分析も評価に有用である。
血液のアシルカルニチン分析は血清のほうがろ紙より、長鎖アシルCoAの感度が高いです。血清で依頼されるか、血清とろ紙のペアで実施されるとよいと思います。
他の検査として、尿有機酸分析は脂肪酸代謝異常症では有用性が低いものの他疾患の鑑別のため実施されたほうがよいと考えます。
脂肪酸代謝異常症の確定診断のためにはアシルカルニチンプロファイルをみてから、候補疾患ごとに酵素活性、プローブアッセイ、遺伝子検査などにすすむことになります。
1)生後早期にフリーカルニチンの低下があっても、体重増加により是正される場合は『カルニチントランスポーター欠損症』ではありません。
2)『MCAD欠損症』を疑う際に、C8, C10が正常域にあるがC8/C10がカットオフ値を超える場合は即精査とする必要はありません。一般に未発症のMCAD欠損症であればC8, C10, C8/C10の全てがカットオフ以上を示すと考えます。本症例ではタンデムマス分析の再検査の上、必要有れば尿中有機酸分析を含めた精密検査で良いです。この際は地元の検査担当機関あるいはその地域のコンサルタント医に相談してから実施するのが手順であります。
3)今回、カットオフを超えたC8/C10については1ヶ月程度時間をあけてタンデムマスの再検をして正常化を確認すると確実と考えます(ただし臨床的な必然性と費用の問題を考慮します)。
EpisodicなCKの上昇はしばしば脂肪酸代謝異常でみられる所見であり、骨格筋型の場合には、新生児マススクリーニングが正常であっても罹患を否定できません。骨格筋型では低血糖やアンモニアの上昇も示さない場合もありますが、血液ろ紙では判断は難しく、血清のアシルカルニチン分析が必須と考えます。
脂肪酸代謝異常症であれば、輸液開始前の方がより異常が明らかなため、治療前の検体採取をお願いします。
なお、代謝ミオパチーには筋型糖原病なども鑑別に上がります。通常は持続的な高CK血症が特徴とされますが、変動する場合もあり、横紋筋融解を繰り返せば、最終的には筋生検などでの確認も必要になります。
新生児マススクリーニングでのC14:1、C14:1/C2の上昇は、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症という脂肪酸代謝異常症を疑うマーカーです。脂肪酸代謝異常症では、脂肪酸の利用が活発な状態の検体で異常値が観察されやすく、哺乳が確立すると(つまり異化亢進状態でなくなると)正常化するという特徴があります。特にろ紙血によるアシルカルニチン分析ではこのような傾向が強く、日齢4〜5では異常値がみられた場合に、ろ紙血での再検を行うことは比較的軽症の患者を見過ごす危険性が高くなります。
初回採血時に哺乳不良だと、そのためにC14:1の軽度異常値を示す場合も確かにありますが、このような症例と患者を鑑別することは、ろ紙血による分析では特に困難です。この ため、VLCAD欠損症のような長鎖脂肪酸代謝異常症を疑われた患者では、初回の異常値が軽度であっても原則として精密検査として対応し、血清のタンデムマスによるアシルカルニチン分析を行うことが奨められます。この結果を確認した上で、最終的に遺伝子解析や酵素活性の必要性を検討することになります。なお、新生児マススクリーニングで発見される患者では、しばしば一般生化学やアンモニアなどはしばしば異常を認めませんので、一般検査の結果から精密検査が必要ないとはいえません。
まず、マススクリーニングの意味と、再採血と精密検査(精検)の違いについて述べさせていただきます。マススクリーニングが「臨床検査」と異なるのは、「標準値」「正常値」がないことです。よく「カットオフ値」と言いますが、これは、「この数値よりも少ない群には、まず患者はいないだろう」という数値であり、「この数値よりも高い群の中に患者がいるかもしれない」という意味になります。
実は、1回目のろ紙血での検査が十分に疾患を疑うレベルであれば、一発精検になります。今回は、確かにいくつかの数値が高めで基準値を超えていますが、一発精検ではないとスクリーニング担当者が判断し、「再採血」判定となったと思います。通常この場合、産科医療機関で再採血を行い、小児科医に話が来ることはありません。今回は貴院での小児診療のルールに従い、小児科で再採血を行ったと言うことなのでしょう。例えば、産科のクリニックで出生した児を想像して下さい。再採血は、単に該当者にクリニックに来ていただき、同じろ紙血を採血するだけです。
再採血の結果、カットオフ値以内に収まっていましたら、それで終了です。2回続けての異常ではなかったと言うことで、疾患の可能性が非常に低いと判断されるわけです。
再採血の結果、やはり異常値であった場合に、はじめて精密検査になります。その段階で、一般採血や疾患特異的な検査を行います。御相談いただいた時点では、「再採血判定」なので、その結果、正常判定でfollow offになるか、精査になるか、まだ分からない時点でのデータとなります。そのため、一般採血や疾患特異的な検査は、この時点では全く不要です。「再採血判定」は間違っていないと思いますので、このまま「再採血」の結果をお待ち下さい。
タンデムマス法(アシルカルニチン分析)による脂肪酸代謝異常症のスクリーニング検査は、脂肪酸の利用(β酸化)が活発な状態での検体ほど異常値が観察されやすい、という特徴があります。特に新生児マススクリーニングでは、哺乳不足などによる異化亢進状態で濾紙血採取が行われると、VLCAD欠損症の指標であるC14:1が軽度上昇を呈しやすい傾向にあります。それは全くの非特異的変化(=偽陽性)としても生じうるのですが、罹患者ないし保因者と結論される場合もあり、即断することは難しいです。
マススクリーニング対象の脂肪酸代謝異常症のうち、VLCAD欠損症のほかMCAD欠損症・三頭酵素欠損症・ CPT-2欠損症においては、哺乳が進んで脂肪酸の利用が抑制されると、指標値の異常が不明瞭化していく傾向にあります。濾紙血による再検では特にそのような傾向が強く、比較的軽症の患者を見過ごす危険を生じるため、異常値が軽度であっても、原則として病院小児科への精査来診(直接精検)を指示し、より高い感度が得られる血清でのタンデムマス分析を行うことが望ましいです。また、他の生化学検査(尿中有機酸分析など)で特異的所見を得ることはできないため、診断確定には、白血球や線維芽細胞を用いた酵素活性測定ないし脂肪酸代謝能測定が必要です。
?C14:1/C2はスクリーニング指標として機能していないようです。?C14:1も異化亢進状態でカットオフ値を越えやすいです。?C14:1がカットオフ値を越えた場合、C14:1がC8、C10、C12、C14より高値であることをもって陽性とし、即精密検査で血清(血漿)アシルカルニチン分析でC14:1の上昇を確認すべきです。?C14:1がカットオフ値を越えていなければ、C14:1がC8、C10、C12、C14より高値であっても、陽性判定とはしません。<理由>母乳栄養が推進される中で母乳分泌不充分・哺乳量不足のために異化亢進状態にある新生児がしばしば経験されます。このような状況では、VLCAD欠損症ではないのに、容易にC14:1やC14:1/C2がカットオフ値を越え陽性判定となります。当然偽陽性なのですが、この場合、全てのアシルカルニチンの値を眺めてみるとC2が上昇し、C0も時に減少し、そしてC8からC14までおしなべて上昇していることに気づかれます。VLCAD欠損症では、C14:1がC8、C10、C12、C14の全てと比べて低いことは経験されていません。ただし、?の場合に軽症型VLCAD欠損症患児である可能性については今後検討が必要です。
タンデムマス法(アシルカルニチン分析)による脂肪酸代謝異常症のスクリーニング検査は、脂肪酸の利用(β酸化)が活発な状態での検体ほど異常値が観察されやすい、という特徴があります。
したがって哺乳不良などの何らかの理由により異化亢進状態となった患者では、VLCAD欠損症の罹患者でなくとも、C14:1の軽度上昇がしばしば経験されます。
軽症例の見逃しを防ぐため、初回ろ紙血検査がカットオフポイントを超えた場合には以下のような対応をとることが、現在のところ推奨されております。
・血液検体のタンデムマス分析再検について
マススクリーニングの対象となっている脂肪酸代謝異常症のうち、今回ご相談のVLCAD欠損症のほか、MCAD欠損症・三頭酵素(TFP)欠損症・ CPT-2欠損症においては、哺乳が進むに連れて脂肪酸の利用が抑制されるため、タンデムマス分析の再検を繰り返すと異常値が不明瞭化していく傾向にあります。
濾紙血による再検では特にそのような傾向が強く、酵素障害の高度な真の罹患者の場合はともかく、ご相談の新生児のように「軽症例ないし偽陽性」というケースでは、濾紙血での指標値の正常化を以て精査不要と判断することは、いわゆる「見逃し」の危険を伴います。
血清でも同様の問題が完全に解消されるわけではありませんが、濾紙血よりも高い感度が得られますので、上に列挙した脂肪酸代謝異常症の陽性例については、原則として前例病院小児科への精査来診(直接精検)を指示し、血清でのタンデムマス分析を提出するべきであります。
・その他の検査に関して
VLCAD欠損症については、血清タンデムマス分析以外の生化学検査(尿中有機酸分析など)で特異的所見を得ることはできません。血清C14:1の異常が顕著なものであれば、それだけでも罹患者と考えてほぼ間違いないところですが、軽度上昇例についてはC14:1の値だけで判断することは困難です。確定診断法としては以下の検査が挙げられます。
・酵素活性測定ないし脂肪酸代謝能測定
<相談先>
島根大学小児科(皮膚生検→線維芽細胞)
国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(広島大学小児科との共同研究として実施)
(ヘパリン血→リンパ球)
・遺伝子解析
マススクリーニング対象疾患の遺伝子解析は厚労省の深尾教授が主任研究員の研究班にて実施されております。
<相談先>岐阜小児科 深尾 敏幸.教授
厚生労働科学研究委託事業 新生児タンデムマススクリーニング対象疾患の診療ガイドライン改定 診療の質を高めるための研究 のホームページに依頼法が載っています。
ご質問ありがとうございます。まず重要なのは、この患児にエルカルチンなどのカルニチン製剤を投与していなかったかどうかということです。投与されていれば、中止して経過をみてください。今回は、そうではないことを前提として以下に述べさせていただきます。
この症例は、日齢5で極端にミルクの摂取が多かったとは考えにくく(ミルクにはカルニチン含有量が多めのものがあります)、やはり、CPT1欠損症の可能性が高いかと思います。
低血糖はないようですので、まずは高アンモニア血症、高CK血症がないことを確認して下さい。生化学的に正常で、全身状態が安定していれば、母乳+必須脂肪酸強化MCTミルクを1:1にして与えて下さい。本疾患は、長鎖脂肪酸の代謝に問題が生じますが、中鎖脂肪酸(MCT)は問題なくエネルギー産生に使用できます。少なくとも以下の遺伝子検査の結果が出るまでは、治療を続けるべきかと思います。
確定診断は、遺伝子診断がよろしいかと思います。CPT1欠損症は、保険診療で遺伝学的検査が認められている疾患です。なお、血液細胞内の遊離カルニチンは増加していても、まだ血清の遊離カルニチンは増加していないと考えられるため、血清のタンデムマスは診断の役に立ちません。濾紙血タンデムマスでデータのフォローを行って下さい。
空腹時や感染症罹患時に低ケトン性低血糖や高アンモニア血症、ライ様症候群をきたして死に至ることもある疾患です。飢餓を避ける工夫は十分に行って下さい。経鼻胃管を使用した栄養によって、上記の発作を防げていた可能性もあります。経口摂取量の低下には十分に気を付けてください。
タンデムマスの検査結果を見せていただいたところ、CPT1欠損症の確定診断を進める必要があります。確定診断には、皮膚線維芽細胞や末梢血リンパ球での酵素活性測定またはCPT1A遺伝子の解析が必要です。しかし現在国内で酵素活性測定を受け付けている施設がありません。そのため、CPT1A遺伝子解析をおこなうことになります。これは保険適応の遺伝学的検査として行うことが可能です。
診断が確定するまでは、飢餓時の低血糖の予防をおこなってください。新生児期は3時間以内の哺乳、6か月以内は4時間以内の哺乳を指示されて、確定診断の結果を待っていただくのがよいと考えます。また、MCTミルクを購入していただいて、母乳または標準ミルクと1:1として与えてください。必須脂肪酸強化MCTフォーミュラなど、必須脂肪酸が強化されたものが推奨されています。発熱を伴う感染症や嘔吐などが見られるときは、すみやかにブドウ糖を含む輸液をおこなってください。
もしもCPT1欠損症と確定診断された場合には、その後も低血糖の予防を続ける必要があります。近くの先天代謝異常症専門医師に相談されながら治療を行われることをお勧めします。
CPT-1の指標C0/(C16+C18)について、初回検体(質問施設のカットオフ値は50)または他疾患で再採血または出生体重2,000g未満で2回目採血された検体の取り扱いとして回答します。また、初回採血、再採血検体のいずれもカットオフ値は同一であるものとして回答します。
1.アシルカルニチンは採血日齢により低下及び上昇するものがあります。C16,C18は採血日齢とともに低下し、C0は上昇傾向にあることが知られています。このため再採血検体では C0/(C16+C18)が初回採血検体よりも高値となる可能性が高いとされています。
2. C0/(C16+C18)のカットオフ値50は全国検査施設と比較して低いグループであり、再採血検体でカットオフ値を超える検体が出る可能性は高いと思われます。一方、本指標の測定値分布について質問施設と全国を比較すると、平均値が全国で一番低く、また、C0の平均値も低い方から5番目であることを考えると、カットオフ値の50が必ずしも低すぎるかということはないかと思われます。
3. 一方、以下の確認が必要です。?C0の測定値のアッセイ間変動、長期間のトレンド等が安定しているか。?カットオフ値を設定した時期のC0及びC16,C18と最近の C0及びC16,C18の新生児検体分布(50、90パーセンタイル値)に変化がないか。これらについてカットオフ値に影響を及ぼすような変動があればその再検証が必要になります。
4. 今回の例については、コンサルタント医師に再々採血とするか正常とするかの判定を相談することをお勧めします。
5. 参考までに福井大学の指導をいただいている検査施設では、下記のようなご指導をいただいているとのことです
「 C16,C18は日齢で下がるため、2週間以内であればカットオフ値は60、それ以上経過している場合は100でもよい。 C0は、患者であれば低くても90以上。さらに、C16,C18 が1.0以下であることも条件している施設もあります。福井大学での分析値を基にして勘案したものであることにご注意ください。」
・中鎖脂肪酸(MCT)ミルクは直ちに始めてください。初回の新生児スクリーニングの結果からCPT2欠損症を疑った時点で、必須脂肪酸強化MCTフォーミュラ(明治721)を開始することが推奨されています。
・これまで低血糖などの急性代謝不全がみられていないとのことですので、母乳(普通ミルク)にMCTミルクを1:1程度で追加されています。Sick dayには全量をMCTミルクとしてください。
・L-カルニチン投与の有効性については確定していません。低カルニチン血症(15~20μmol/L以下)の場合には20μmol/L以上となるように補充されることがあります。
・CPT2遺伝子解析によって、日本人の高頻度変異であるp.F383Yアレルが存在するかどうかを確認することで、酵素活性の結果と併せて予後予測に有用であると考えられています。少なくとも3歳までは慎重な管理をお願いします。
・「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」(先天代謝異常学会編 診断と治療社)に詳しく記載があります。ぜひ参考にされることをお勧めします。
お尋ねを拝読しました。提供いただいたマススクリーニングデータは、陽性を指摘された2項目しか情報が含まれていませんが、C2 の高低によって印象が違ってきます。C2 高値で (C16+C18:1)/C2 が基準値を若干超えている程度だと、CPT2欠損症に罹患している可能性は低下します。哺乳+輸液管理下でマススクリーニング用検体が採取されたとすると、脂肪酸酸化は抑制されて、C2(アセチルカルニチン=アセチルCoA生成量を反映)は低値を示していたものと推測されますが、いかがでしたでしょうか。そのような状態でC16, C18:1などの長鎖アシルカルニチンが相対的に蓄積傾向であったとすれば、罹患がより疑われるところですが、今回のような新生児期からの低血糖症で、この程度の指標値レベルにとどまっている症例の経過を、CPT2欠損症だけで説明できるかは疑問の残るところでもあります。
いずれにしても、CPT2欠損症・VLCAD欠損症・MCAD欠損症などの脂肪酸代謝異常症のマススクリーニングでは、濾紙血による再検査では異常所見が減弱〜消失する傾向を示します。従って、躊躇せずに血清アシルカルニチン分析を実施することが推奨されますので、早急にご検討ください。
回答① 早産・超低出生体重児ですので、正常新生児のコントロールを用いて評価するのは難しい面があります。
①(C16+C18:1)/C2は検査施設のカットオフ値(99.9%タイル)を上回っています。
②C16でカットオフ値を下回っていますが、検査施設の50%タイルを考慮すると陽性となります。
③C14/C3はカットオフ値を上回っています。
またC0がやや低めで、かつC3の低下とCPT2欠損症を疑わせる要素があります。
以上よりCPT2欠損症疑いとして精査に進むべき症例ですので、血清アシルカルニチン分析をしてください。その結果が陽性であれば末梢リンパ球での酵素診断および遺伝子検査に進みます。
回答② 外注検査会社で測定したアシルカルニチンは短鎖から極長鎖まで (タンデムマスの結果に当てはめればC2〜C18)の総和です。代謝発作時はアシルカルニチンの総和が正常域を逸脱することがあります。これは CPT2欠損症であればC16, C18:1を中心に著明に増加するからです。健常時はC16,C18:1の上昇は、他の分子種 との比較による相対的な増加に留まります。アシルカルニチンの総和で疾患を除外することは困難です。超低出生体重児はフリーカルニチン欠乏に陥りやすく、アシルカルニチンの変動の幅も小さくなり絶対量での評価はできません。
フリーカルニチンの低値が続いていることから、カルニチン補充も検討必要です。
回答③ 超低出生体重児であり栄養学的に低カルニチン血症に陥り易い状況と、それによる脂肪酸酸化障害のリスクを考えると、血清カルニチン分画の提出前に補充療法を開始するこ とが優先されます。むしろ体内のフリーカルニチンが補充されることにより、注目すべきアシルカルニチンの分子種の変動が明瞭になります。
事前確率(検査前確率)の低い検査は、事後確率(検査後確率)を上げないばかりか、判断の迷いの原因となります。カルニチン代謝異常症でけいれんを来す場合には、何らかのfirst lineのデータの異常を認めます。特に、低血糖がみられると思います。血糖、血液ガス、アンモニア、乳酸/ピルビン酸、ケトン体/遊離脂肪酸に異常がなければ、考えにくいところです。
たとえ急性脳症であったとしても、先天代謝異常症を疑わせる所見がなければ、ビタミン類やカルニチンが有効であるというエビデンスはありません。Leigh症候群を疑わせる画像所見や高乳酸血症、高アンモニア血症、低血糖などの所見があってはじめて、CPT2欠損症を含む先天代謝異常症を疑います。
今回、前回の熱性けいれんが通常とは異なるとお考えであれば、まずcritical sampleを用いて、first lineの検査をするべきだったと思います。そうして事前確率を上げた状態で、CPT2欠損症が疑われる場合は、血清を保存しておき、血清タンデムマスを行っていただくべきだったと思います。もしも今回、critical sampleが残っていないのであれば、次回、けいれんが生じた際に必ずこれらの検査を行って下さい。
尚、熱性けいれんに対するバルプロ酸投与の有効性に関しては、エビデンスがあるかどうかに関しては、是非、「熱性けいれん診療ガイドライン2015」を参考にして下さい。
新生児タンデムマススクリーニング検査の結果、フリー、アシルカルニチンとも低い場合はまず全身性カルニチン欠乏症(カルニチントランスポーター欠損症)の可能性 を考えて診断を進める必要があります。フリーカルニチンの低値が持続すると脂肪酸代謝障害による代謝発作や高アンモニア血症を引き起こす可能性があります。同時に母親のカルニチン欠乏症を考慮する必要あり、母親自身が未診断のカルニチン欠乏症のことがあります。また出生体重等からはIUGR等の胎内での栄養障害の影響ではないかを検討します。
精密検査が必要な症例では以下の検査を実施します。
胸部Xp、心電図、心エコー、腹部エコー
血液一般、血液生化学(トランスアミナーゼ、CK、遊離脂肪酸を 含めて)、尿一般、尿生化学
血中ケトン分画、アンモニア、血糖、血液ガス
血液アミノ酸分析、尿アミノ酸分析
尿有機酸分析
尿中フリーカルニチン排泄率の測定(血中、尿中のフリーおよびアシル カルニチンを測定しクリアランスをみる
カルニチン分画の測定は外注の委託検査会社で可能ですが、項目として保険収載にはなっていません。以上の検査結果よりカルニチントランスポーター欠損症が疑わたら、遺伝子検査が確定診断に有用です。
遊離カルニチン分画排泄率(%)
=[(尿中遊離カルニチン×血清クレアチニン)/(血清遊離カルニチン×尿中クレアチニン)]×100
基準値は 1.34±0.75%
参考文献 大浦敏博.全身性カルニチン欠損症とカルニチン療法。小児科 第40巻 第9号 :1042-8, 1999年
グルタル酸血症2型は新生児発症型と乳幼児期以降に発症する型(遅発型)に大きく分けられます。また、グルタル酸血症2型の血清アシルカルニチン分析では、一般的には短鎖〜長鎖の様々なアシルカルニチンが上昇します。
今回は中〜長鎖アシルカルニチンの上昇はいずれも軽度でした。新生児発症型のグルタル酸血症2型であれば、通常は中〜長鎖を中心としたアシルカルニチンの著明な上昇を認め、尿中有機酸分析でも所見を認めます。そのため、今回は少なくとも新生児発症型の可能性は低いと考えられます。しかし、遅発型の中には尿中有機酸分析で常時に異常が出ない例もあるため、まずはシックデイでの対応を徹底したうえで経過観察を行い、血清アシルカルニチン分析の再提出が必要であると考えます。また、哺乳のタイミングや体重増加不良などでも今回と同様の所見が出現することがあります。
今後も血清アシルカルニチン分析で同様の所見が続くようであれば、遺伝子解析などの確定診断のための検査が必要になります。
グルタル酸血症2型の判定は難しい面もありますが、血清のアシルカルニチン分析の方が信頼性があると考えられます。その検査での再検査で異常がなく、尿有機酸分析(これをやったかの情報はないですが)でもグルタル酸血症2型のパターンが出ないのであれば、通常は否定的と考えていいのではないでしょうか?少なくとも新生児マススクリーニングで拾い上げられるグルタル酸血症2型ではないといえます。グルタル酸尿症2型の最軽症例(成人になって筋症状で発症する例、極めて稀です)は血清、ろ紙ともにアシルカルニチン分析では正常になることがありますが、この様な場合はそもそも突然死などで発症する事はないのでスクリーニングで見つける必要は必ずしもないと考えられています。遺伝子解析についても例外的な事を考えると、GA2ではないと言うのはとても難しいため、現状では血清アシルカルニチン分析でまったくの正常である場合はそれ以上の追求は行われない事が多いです。初回採血時に異化亢進状態である場合(哺乳量が安定しない、体重減少が多い、等)には偽陽性となる場合が多いです。本症例はそのような事が確認されれば、初回の検査所見が二次的な変化であったと考える間接的な情報になると思われます。
・GALEの酵素活生測定は、大阪市立大学で実施されています。
・依頼方法に、細かい規定があるため、事前に相談ください。
・遺伝子検査については、岐阜大学にご相談いただき、専門医サポートを受けられることをお勧めいたします。(http://www.jsiem.com)
ボイトラー検査(報告書ではUTもしくはGALTと略されているかもしれません)は蛍光あり(活性あり)であったものとして話をすすめていきます。
肝障害(-)胆汁うっ滞(-)で、Gal<<Gal-1-Pのパターンなので最も疑わしいのはガラクトース血症?型になります。ガイドラインにありますように、国内ではこれまで無症状の末梢型の報告しかありません。ガラクトース血症?型であれば通常乳糖制限をしなくとも、徐々に Gal、Gal-1-Pとも正常化していきます。
「酵素活性測定は、新生児マススクリーニング検査施設などに相談すること」とされていますが、すべての新生児マススクリーニング検査施設できるわけではありませんので、そちらの新生児マススクリーニング検査施設にまずご確認ください。遺伝子診断は、良性疾患なので一般的ではありません。「Gal<<Gal-1-Pのパターン」、「数か月で徐々に Gal、Gal-1-Pとも正常化」「無症状」であることをもって、臨床的にガラクトース血症?型と判断するのが現実的に思われます。
日本マススクリーニング学会では、一次検査・二次検査(確認検査ともいいます)はともに、初回採血のろ紙を用いて検査します。二次検査とは、一次検査(初回検査)でカットオフ値を超えた検体について、同じろ紙血の残りのスポットから切り取った検体を用いてもう一度検査をやり直すいわゆる確認検査です。本来ガラクトース血症の検査は酵素法(ガラクトースとガラクトース-1-リン酸)とボイトラー法(ガラクトース血症1型の酵素の測定)で行います。しかし、現在両方を同時に検査しているところは少なく、以下のような状況です。
<補足>:●一次で酵素法のみ実施施設:21/40 ●一次でボイトラーと酵素法の両者実施施設:15/40●二次でボイトラー実施施設:21/40●ボイトラーを全く実施していない施設:4/40 再採血は二次検査で異常の場合に実施します。再採血で異常になった場合は、精密検査機関に紹介となります。
各検査施設での新生児マススクリーニングの基準値ならびにカットオフ値の決定は、足底(かかと)の穿刺採血して得られた血液を直接ろ紙につける採血法を原則としています。これまでの厚労省研究班の検討では、手背の静脈採血ではTSHが低値となる、毛細管の使用はヘパリンの混入の影響のみならず多くの項目が低値となる傾向があるとの報告があります。したがって基準値・カットオフ値の有効性を保証するためにも、採血手技を遵守する必要があります。同様の観点から動脈ラインからの採血は、十分に逆流させたとしても微量なヘパリンや生理食塩水の混入は避けられないこと、そもそも動脈ラインからの採血検体を用いた場合の基準値・カットオフ値の適用がありません。しかしながら、超低出生体重児で重症な病態にあり、皮膚も脆弱で足底からの穿刺採血が困難かつ危険な症例も予想できます。このような症例では動脈ライン等からの採血検体を用い、第1回目の検査結果を参考値として得ておくことは許容されます。この場合、状態が許せば生後1か月で第2回目の採血を通常の方法で行い、合わせて結果を確認されてはいかがでしょうか。
現在まで本当に少数ですが、COVID-19妊婦から生まれた児の新型コロナウイルス感染が報告され始めています。新生児が新型コロナウイルスに感染していた場合、環境へのウイルス暴露が問題になります。新型コロナウイルスは環境中からも検出され、伝播要因になっていると考えられます(Annals of Internal Medicine, April 1, 2020.)。そのため、血液中には新型コロナウイルスが存在しなくても、ろ紙そのものに付着している可能性を否定できません。そのため、COVID-19妊婦から出生した児の新生児マススクリーニング用のろ紙採血およびその取り扱いに関しては、新型コロナウイルスPCRの結果にかかわらず、以下の様な対応を推奨いたします。
・標準予防策を厳重に行った上で、推奨されている日時(生後4〜6日)に、ろ紙採血を行ってください。
・ろ紙そのものに環境中の新型コロナウイルスが付着していると想定して、院内では感染検体と同様の取り扱いで24時間、院内で乾燥させて下さい。
・発送前に検査施設と協議を行い、他の新生児の検体とは別に、COVID-19妊婦から出生した児の検体であることが分かるようにして検査施設に送ります。基本三重梱包に準じて、三重のビニール袋に入れて郵送して下さい。郵送方法は通常通りで良いと思いますが、病院と検査施設との協議の上、決定して下さい。
なお、本回答は、あくまでも、これまでの知見から考えうる現時点での方針案であり、公式見解ではないことを申し添えます。
オキソプロリン(ピログルタミン酸)血症は、グルタチオン合成酵素(GSS)欠損または、5-オキソプロリナーゼ(OXPase)欠損により先天的にグルタチオン回路が障害される疾患です。重症熱傷やアセトアミノフェン中毒でも二次的にオキソプロリンが上昇することもある他、一部の尿素サイクル異常症、アミノ酸・有機酸代謝異常症でも一過性に高オキソプロリンを呈することがあるため、尿中有機酸分析だけだなく血漿アミノ酸分析も鑑別には必要です。なお、確定診断には遺伝子解析や酵素活性が必要ですが、現在日本でこれらの検査を行っている研究室や検査施設はありません。自施設で遺伝子解析出来なければ、生化学診断(尿中有機酸分析の結果)に留めるしかないでしょう。なお、溶血性貧血を認めることから、GSS欠損症である可能性が高いのですが、臨床診断は出来ないと言う報告もあり、確定的なことは言えません。とはいえ、GSS欠損もOXPase欠損も治療は同じです。
治療は対症療法のみです。現行のビタミンC、ビタミンEに加えて、オキソプロリンが上昇するようなアセトアミノフェン、フルクロキサシリン、ネチルミシンと言った薬剤の禁止、肝機能・腎機能の保持、感染予防などが考えられる対応策です。過去にはアセチルシステイン(アセトアミノフェン中毒の解毒薬)やグルタチオンアナログが治療候補薬として挙げらていましたが、近年では使われていません。ただし、本疾患では出来ることが少ないため、試す価値はあるかもしれません(保険適応がないので、倫理委員の申請は必須です)。蛋白制限は無効とされており、母乳やミルクは普通にあげて構いません。その他、日常的にはクエン酸や重炭酸ナトリウムの内服による代謝性アシドーシスの予防(特に感染時にはアシドーシスが進行するため、高濃度の重炭酸が必要)、高ビリルビン血症への対応、電解質異常への注意が挙げられます。また、G6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)欠損症という溶血性貧血を起こす病態で注意すべき点は同じように注意した方が良い、という報告もあります。
この種のケースは特異的疾患の特定に至らないことが多いですが、急性期の血清・尿が凍結保存されていれば、アシルカルニチン分析・有機酸分析所見を確認することで、当コンサルテーションセンターに関連する疾患群は、診断の糸口が得られるか、除外することができます。急性期検体が残っていない場合、安定期検体で分析しても異常があれば有力な所見となりますが、異常がない場合の除外診断には不十分となるため、次回の症状出現時には必ず急性期検体を確保することが望まれます。
代謝救急に必要な検体をきちんと急性期に採取されており、非常に適切な対応をされていると思います。
問題は検査結果の解釈かと思います。
まず、血液ガスですが、HCO3+15=34.6で、pCO2の39をやや下回っています。呼吸促迫があるのにCO2が飛んでいないので、少し呼吸アシドーシスも入っていると考えられます。もともと少し気管支喘息などがあるのかもしれませんが、大きな問題ではありません。
次にAG 20と開いています。余計なanionは5〜6 mEq/Lくらいでしょうか。この時の乳酸が記載されていませんが(乳酸は測定しましょう)、総ケトン5225μmol/Lですので、約5 mEq/Lであり、この余計なanionはこのケトン体で説明できると思います。血液ガスのlactateが2〜3 mEq/Lでも大きな影響はないと思います。つまり、予想外の第3の酸があるとは考えにくく、少なくとも有機酸代謝異常症は考えにくくなります。
今度は血糖とケトン体を見てみましょう。血糖42mg/dlで総ケトン5225μmol/L,アセト酢酸870μmol/L,3-ヒドロキシ酪酸4355μmol/Lは、それほど違和感のない数値です。低血糖時のケトン体の産生は適切に行われていると考えられ、ケトン体を産生する経路であるβ酸化障害(脂肪酸代謝異常症)は否定的です。ただ、3-ヒドロキシ酪酸/アセト酢酸比が5.0と著明に増加しており、本来であれば、ケトン体代謝異常症を鑑別するために遊離脂肪酸も欲しかったところです。いずれにしても、ブドウ糖投与後は遊離脂肪酸が急激に低下するので、貴院に受診したタイミングでの遊離脂肪酸はあまり役に立ちません。なお、実は異化が亢進した場合、アセト酢酸→3-ヒドロキシ酪酸の代謝が進みます。こういった結果は「調子が悪い児」に非特異的にみられるものと考えていいと思います。
最後にカルニチン分画を見ます。確かに総カルニチンの基準値は45〜91μmol/L,遊離カルニチンは36〜74μmol/L,アシルカルニチンは6〜23μmol/Lと書いてあるので、総カルニチン50.9μmol/L,遊離カルニチン23.8μmol/L,アシルカルニチン27.1μmol/Lですと、遊離カルニチンが低く、アシルカルニチンが高値に見えます。しかし、この基準値は状態が安定している正常と思われる人間のデータの95%が入る値を示しているのです。状態が悪い場合、つまり、異化が亢進していれば、非特異的に遊離カルニチンが消費され、アシルカルニチン、特にアセチルカルニチンが高値になります。また、この程度の遊離カルニチン低下ではβ酸化には影響がでません。ケトン体がきちんと産生されているのがいい証拠です。
もちろん、遊離カルニチンの低下は、手足口病で肉類を食べられず、うどんしか食べていないのも影響していると思います。もう一つ、重要な問題としてピボキシル型抗菌薬があります。もしも手足口病に対して近医で「メイアクト」などのピボキシル型抗菌薬が処方されていれば、その影響の可能性があります。その場合、濾紙血タンデムマスを行うと、遊離カルニチン(C0)が低下し、ピバロイルカルニチン(C5)が増加しています。ただ、これも critical sampleでないと検出できません(既に服薬を中止していれば検出されません)。
まとめますと、今回の症例は、手足口病による摂食不良に起因する「ケトン血性低血糖症」であり、特異的な先天代謝異常症を示唆するものではありません。そのため、状態が改善してからの代謝異常の検査は全て不要です。但し、同様の低血糖を繰り返すようであれば、critical sampleで、濾紙血タンデムマスを一度提出しておくのはお勧めです(先ほどの抗菌薬の問題があればなおさらです)。また、その際に、今回採血されていない乳酸/ピルビン酸、ケトン体分画/遊離脂肪酸をセットで提出して下さい。もちろん、今回同様に、血糖、血液ガス、アンモニアも同時に採血して下さい。
既に行われているとは思いますが、低血糖予防の指導は重要です。7歳であってもやせ形の児であれば、容易に「ケトン血性低血糖症」をきたします。調子が悪いときの糖分、塩分の摂取を指導して下さい。また、この患児が自閉スペクトラム症である場合、こだわりが強く、何をやっても甘いものを受け付けない時もあります。その場合は早めに静脈輸液が必要なので、通常よりも早いタイミングでの救急受診を指示することも重要です。
以上、御参考になりましたら幸いです。
痙攣を認める患者さんで、ここに書かれている検査を行っていれば、タンデムマス検査(アシルカルニチン分析と一部アミノ酸)をあえて再検する意味はないと思います。
先天代謝異常症の診断のステップとして、臨床症状(けいれんに加え、特殊な体臭や顔貌など)、first lineの検査(低血糖、アシドーシスなど)があります。これらの方法で先天代謝異常症を疑う事前確率が上がってはじめて正しい診断を得るための検査の意味が出てきます。
これはアシルカルニチン分析だけではなく、血液アミノ酸分析、尿中有機酸分析でも同様です。もしもこれらの検査が基準値以内であったとしても、偽陰性である可能性があり、「問題ないことの証明」にはなりません。全ての先天代謝異常症がタンデムマスで異常が出るわけではありません。何を疑って検査をするのか、その検査で何がわかるのかを考えてください。
参考までに、新生児マススクリーニングでは血液ろ紙で検査を行っていますが、臨床的診断の目的でアシルカルニチン分析をする場合は、通常のスクリーニングセンターでなく、タンデムマススクリーニング普及協会ホームページを参照して、島根大学や福井大学に検査を依頼するのが望ましいと思います。
なお、双胎の片方が妊娠6 週で死亡されたという家族歴は気になります。遺伝学的背景に基づく難治性てんかんの可能性があり、小児神経の専門病院での精査が重要だと思います。
脳症の背景疾患として代謝疾患を否定することは確かに重要な点ですが、前医の輸液前の血糖が60㎎/dlであることと、貴院での尿ケトンが陰性であることから非ケトン性低血糖である、とはいえません。糖負荷によりケトン体は速やかに低下するため、前医での低血糖時の尿や血液でケトン体がどうだったのか、の検討が必要です。
脂肪酸代謝異常では、しばしば急性期に中性脂肪や遊離脂肪酸の上昇がみられる一方、β酸化が抑制されてケトン体産性能が低下しているため、遊離脂肪酸/総ケトン体モル比 > 2.5,もしくは 遊離脂肪酸/3-ヒドロキシ酪酸モル比 > 3.0であれば脂肪酸β酸化異常症が疑われるとされます。急性期に測定できたTGの値が上昇しておらず、脂肪肝の所見なし、またアンモニアも正常範囲内ということであれば、これらは急性期の脂肪酸代謝異常症としては典型的ではないと考えられます。
そのうえで、前医での検査が十分できていないことも含め、脂肪酸代謝異常の鑑別が必要とお考えであれば、血清を用いたアシルカルニチン分析が有用です。ただ、これは新生児マススクリーニングの分析機関でできるとは限りません。TMSコンサルテーションセンターにお尋ねいただき、検査が可能な機関に依頼されるのが良いと思います。
①有機酸代謝異常症の診断ツールとしては、GC/MSによる尿有機酸分析以上のものはありません。発作時に尿有機酸分析で異常がなければ有機酸代謝異常症は考えなくていいでしょう。
②タンデムマス分析は、有機酸代謝異常症においてスクリーニング以上のものではなく、繰り返し検査は必要はないと考えます。
③少なくとも1回の発作でケトン体が4540μmol/lでているので、脂肪酸代謝異常症は否定的に思われます。
④アセトン血性嘔吐症の急性期に低血糖はないということですので、いわゆる「ケトン性低血糖」でもなさそうです。しかしアセトン血性嘔吐症としては、年齢的に発症時期が早い印象です。ケトン体代謝異常症の可能性も否定できません。周期的な嘔吐をきたす疾患の鑑別を進めることが重要です。
出生体重2,000g未満児の2回目採血基準は、1)生後1ヶ月、2)2500gになった時、3)退院時のいずれかの早い時期に実施することが関連学会の共同ガイドラインとして推奨されています。従って、この推奨ガイドラインでは、ご質問の哺乳状況による2回目採血は考慮されていません。
現行新生児スクリーニング対象疾患で、哺乳不良状態で採血された濾紙血検体で偽陰性となる疾患として、a)ガラクトース血症、b)アミノ酸代謝異常症が考えられます(この他の脂肪酸代謝異常症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症は哺乳状況による偽陰性発生はないとされています)。フェニルケトン尿症などのアミノ酸代謝異常症は欧米などの出生24時間から48時間の哺乳量が十分ではないと思われる地域(24時間程度で採血されることも多い)でのスクリーニングでも患者であれば確実にスクリーニングできるとの成績が報告されています。
ただし、ガラクトース血症では哺乳による乳糖負荷がないと血中ガラクトースの上昇が認められないため、出生体重2,000g未満の児や、哺乳不良の児の初回採血検体ではボイトラー法によるガラクトース-1-リン酸トランスフェラーゼ(GALT酵素)活性の測定が必須となります。
なお、原則はガイドラインに基づいて2回目採血を行ないますが、スクリーニング対象疾患が疑われる症状をきたしている場合は、ガイドラインよりも早期に採血を行い、スクリーニング検査を行うことが推奨されています。
【回答?】フランスにおける新生児マススクリーニングの実施状況については、『Therrell BL et al.: Current status of newborn screening worldwide: 2015. Semin Perinatol 39 (3): 171-87, 2015.』 によると、タンデムマス法による検査は2015年1月から開始されているようですが、対象疾患は日本よりも少なくなっています。
フランスでの対象疾患:
・内分泌疾患:先天性甲状腺機能低下症, 先天性副腎皮質過形成症
・アミノ酸代謝異常症:
フェニルケトン尿症,メープルシロップ尿症,ホモシスチン尿症,
シトルリン血症1型, アルギニノコハク酸尿症
・脂肪酸代謝異常症:
MCAD欠損症, VLCAD欠損症, LCHAD/三頭酵素欠損症,
全身性カルニチン欠損症(カルニチントランスポーター異常症)
【回答?】フランス在留外国人の出産でも新生児マススクリーニングが提供されることを前提として、結果について何も通知を受けずに帰国されているようですので、上記疾患については受検して正常だったものと判断されます。他に、日本では対象とされていない、鎌状赤血球症・嚢胞性線維症も検査対象ですので、これらも異常がなかったものと考えられます。
一方、日本のマススクリーニングでは、上記に加えて以下の疾患も検査されています。
・ガラクトース血症,
・有機酸代謝異常症:
メチルマロン酸血症, プロピオン酸血症, イソ吉草酸血症,
メチルクロトニルグリシン尿症, 複合カルボキシラーゼ欠損症,
ヒドロキシメチルグルタル酸血症, グルタル酸血症1型
・脂肪酸代謝異常症:
CPT1欠損症
CPT2/CACT欠損症
・二次対象疾患:
アミノ酸:シトリン欠損症
脂肪酸:グルタル酸血症2型
フランスのマススクリーニングでカバーされていないと考えられる諸疾患についても、ひと通りの検査実施を希望される場合、自治体事業としての新生児マススクリーニングによる対応は困難です。特に疾患を疑うのではなく、あくまでもスクリーニング目的で検査を行う場合は有料となりますが、タンデムマス・スクリーニング普及協会への依頼が可能です。
抗生物質を使用していた児について、お尋ねのとおり、抗生物質を使用していても、結果が正常であれば再検査は必要ありません。
新生児または母体にピボキシル基含有抗菌薬が投与されている場合には、検査結果が要再採血や要精密検査となる場合があります。この場合には結果は「正常」ではなく「陽性」となってしまいます。また、昔、ガスリー法を用いて検査していた際には、抗生物質を使用していると、判定に用いる細菌の生育に影響することがあったため、確認の検査が必要でした。技師団の先生からのコメントにもあるように、このことを指摘されていたのかもしれません。
結論としては、他の理由で再採血に該当する児でなければ、結果が正常ですので再採血の必要はありません。
ご参考までにコンサル技師団のコメントも添付いたします。
ご質問にある「抗生物質を使用したら必ず再検査が必要、と認識している」方は、古くからマススクリーニングに携わっていた方、またはその方からご指導を受けた方かもしれません。
以前、アミノ酸代謝異常症のマススクリーニングの検査法であった「ガスリー法」では、内服している抗生剤の影響を受けて判定が不明瞭または不能になることがありました。そのため、マススクリーニング開始当初ではもう一度採血をお願いする場合も想起されます。
しかしながら、その後はガスリー法であっても、適切な2次検査法(例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法など)と組み合わせれば、再採血の必要性はほとんどなかったはずです。
現在は、コンサルテーションセンターから例示された事例にあるように、児または母体がピボキシル基含有抗菌薬を内服の場合には偽陽性となって、検査値が要再採血、要精査レベルにいたる例もよく見られます。
今回のご質問にあった例では、どのような抗生剤をご使用であったのか不明ですが、検査結果は「正常」判定とのことですので、2000g未満の未熟児等ほかの事由がない場合には再度採血するにはあたらないと思われます。
なお、該当児の検査結果の詳細については、必要に応じてマススクリーニングの検査施設に直接お問い合わせください。
1)現在8ヶ月のシスチン尿症を疑う症例ですが、腎尿細管の生後のアミノ酸再吸収能の発達を考慮して検査結果の評価をする必要があります。
特にScriverが1986年に発表した論文 (J. Pediatr.106:411, 1985)ではヘテロ接合体では乳児期に極めて高い尿中シスチン排泄が見られるが小児期に正常化することが報告されています。
したがって今回ご相談のあった症例でも2歳まで尿中シスチン排泄量がどのような変化を示すのか慎重に経過観察する必要があります。
2)ニトロプロシド反応は古典的な定性分析ですので、尿アミノ酸分析が実施されている症例では意味ありません。むしろ尿中有機酸分析を行い、シスチン以外に尿路結石を増悪させる因子を検討する方法もあります。尿のメタボローム解析により結石の原因物質の解析も有用です。
3)治療の導入については、2歳までシスチンならびに2塩基性アミノ酸の排泄高値が継続することを確認しながら十分な尿量確保と尿アルカリ化を検討されてはいかがでしょうか。NGSによる遺伝子診断により病型診断と特異的な変異が見つかればある程度重症度の予測がつくことが期待されます。その上で経年的な薬物療法の追加が必要になるかもしれません。シスチン尿症1型と精神遅滞の関連に言及する論文は古くから記載ありますが確定的な根拠のあるものではありません。治療は中枢神経系を対象とするものではなくあくまでも結石予防であることに留意ください。
※当センターから、下記資料2点を別途ご郵送致しました。
・日本マススクリーニング学会誌第20巻3号2010年『タンデム検査で偽陽性を生じる抗生剤使用の問題点とその対応について』
・PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo.8 2012年4月『ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について』
ご質問の件は新生児マススクリーニングの検査法 の歴史的変遷から理解いただく必要があります。
ろ紙に印刷されている『抗生剤使用の有無』の事項は、ガスリー法の時代では抗生剤の使用が検査に用いる細菌の発育を抑制することから記載を求められていました。ガスリー法は細菌の成長阻止を検出するバイオアッセイでしたので、当然どのような抗生剤であっても結果を不明瞭あるいは判定不可能にするということで再採血が必要とされていました。
今日のタンデムマス法ではご質問内容にもありますピボキシル基を有する抗生剤による偽陽性が当初から問題となりました。ピボキシル基は体内でカルニチンと結合しピバロイルカルニチンとなりますが、タンデムマス分析の結果ではイソバレリルカルニチン(C5)として検出されてしまいます。(このC5の上昇はイソ吉草酸血症のマーカーとなっています)それだけでなく血中のフリーカルニチン濃度を下げ低血糖を誘発する可能性があり新生児への投与の安全性は保証されていません。ある自治体で3年間に約4万5千件の新生児スクリーニングを行いおよそ100件の再採血例がありました。その原因を調査した結果、18%が抗生剤使用のためと判明しました。そこで新生児マススクリーニング連絡会議を通じて広報紙にピボキシル基を有する抗生剤の副作用と新生児への使用の危険性について注意喚起を行いました。抗生剤使用の記載意味が啓蒙された結果、現在は抗生剤による偽陽性は激減しております。
またC5の上昇があり再採血必要となる場合、抗生剤使用の記載があれば採血医療機関にその中身を問い合わせピボキシル基含有抗生剤の使用が確認できれば、イソ吉草酸の可能性による即精密検査を避けることができ患者家族に無用な心配をかけることが無くなります。また抗生剤使用の事実があれば(ピボキシル基含有に関わらず)、C5以外の異常値が検出されても新生児の病態との関連を疑い再採血あるいは精密検査を判断する手がかりになることもあります。
ピボキシル基を含まない抗生剤ではアンピシリンとセフォタキシム等がC5, C14:1, C16:1-OHを上昇させる可能性がありますが、尿有機酸分析を行うことで鑑別が可能です。
このように抗生剤使用の有無の記載はタンデムマス法時代の新生児スクリーニングの質の向上(特に再採血率の低下)に欠かせないものであり、その意味を理解いただいて今後も記載いただくようにお願いします。
「低出生体重児の採血時期に関する指針」(日本マススクリーニング学会誌16巻3号6-7頁、2006年)が日本小児内分泌学会、日本マススクリーニング学会、日本未熟児新生児学会の共同の推奨指針として下記のとおり報告されています。
『出生体重2,000g未満の低出生体重児は、原則的に日齢4?6で第1回目の採血をし、さらに
? 生後1か月
? 体重が2,500gに達した時期
? 医療施設を退院する時期
のいずれかの早い時期に、第1回目の検査の結果にかかわらず、第2回目の採血を実施することが望ましい。』
【回答?】
質問に記載のとおり、生後1か月未満であっても、退院時に2回目採血を実施することで指針に合致していますので、2回目採血検体の検査で陽性判定の場合を除いて、3回目の採血は原則として必要はないものと解釈しています。なお、本指針では在胎週数、修正在胎週数に関する規定はございません。
【回答?】
本指針は出生体重が2,000g未満の低出生体重児における偽陰性例の発生を避けること、患者発見の遅れを避けることを目的として提案されているものと解釈しています。従って、「生後1か月」及び「体重が2,500g」に達していないケースでも退院時に2回目採血することが推奨されています。
【回答?】
新生児スクリーニングの実施主体は都道府県・政令指定都市であり、各自治体が厚労省母子保健課の通知文書や関連学会の指針などを参考にして、その「実施要綱」や「実施要領」、「実施手順」などを定めており、検査施設ではこれらに基づいて検査を実施しています。
上記の指針に従って2回目採血が行われ、検査結果が正常判定であれば3回目の採血は不要であるため、当該自治体での「低出生体重児の採血時期に関する規定」について検査施設にご確認をしていただく必要があります。
大変厳しい状況と考えます。ただ、頂いたデータは、先天代謝異常症というよりは多臓器不全による二次的な変化の影響が強いと考えられます。先天代謝異常症があるとすれば、ミトコンドリア異常症(特にECHS1欠損症#616277)くらいかと思います。現在の治療に追加するものはないかと思います。以下、コメントさせていただきます。
日齢2から経腸栄養開始し、日齢5には母乳30ml×8回まで増量し、同日の先天代謝マススクリーニングでは正常だったとのことですので、この時点で、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症は考えにくく思います。
日齢7の転院時に全身浮腫、筋緊張低下、痛刺激に反応なしで、血液検査で乳酸 50mg/dlと高値ですが、NH3は55と正常で、BNP 7,000であることから、この高乳酸血症は心不全で説明できると思います。その後、日齢9の夜間に突然嘔吐からショック状態にいたり(pH 6.8, BE-15、乳酸160mg/dl, AG 30)、日齢10にメイロン補正でアシドーシスが改善したとのことです。メイロン補正で比較的簡単にアシドーシスが補正されているところが、先天代謝異常症らしくない部分です。経過中、アンモニア上昇がないことも先天代謝異常症らしくなく、多臓器不全、DICの状況象を支持します。
この患者さんの場合、やはり心疾患による乳酸高値の影響が考えられます。また、経管栄養を始めてからの経過の悪化を考えますと、壊死性腸炎(NEC)の可能性もあります。そして、やはり、感染症が重要です。何らかのウイルス感染によるSIRSは考えられるかもしれません。ただ、そのベースにミトコンドリア異常が存在している可能性はあります。ミトコンドリア異常症とすると、グルコースが毒になる可能性があります。グルコースは最低量にして、血糖値を100 mg/dl前後にしたほうが良いと思います。現在の患児にとって最も良い栄養は、MCTミルクだと思います。
もしも不幸にして亡くなられた場合は、剖検の検体を用いた酵素活性の測定などを含む原因検索をしっかり行うことも重要です。それは、原因を究明することによって、自分の責任ではないかと自分を責めておられるご家族を救うことにも繋がるからです。
最後に、今回の診断には、尿中有機酸分析の結果が最も重要だと思います。もしもそれで特異的な所見があれば、ECHS1欠損症の可能性もあると思います。
新生児マススクリーニングを運用していくうえでしばしば議論になることの一つに、スクリーニング後の精密検査時の各種検査の費用はだれが負担するのかというものがあります。診断が確定したのちの治療管理時の各種検査の費用の負担も同様な問題を含んでいます。
行われる検査が保険診療として認められているものは、もちろん保険請求できることは言うまでもありません。問題の保険請求が認められていない検査はだれの負担になるのかは明確ではありません。また保険にて認められている検査であってもいろいろな制約がついていることも多く、新生児マススクリーニングに携わる者は保険診療体制についても十分な知識を持つことが必要です。
今回は新生児スクリーニングに関連する諸検査の保険診療上の注意点を述べることで皆様の診療または受診のお役に立てればと思います。
今回は主に先天性代謝異常症に関することを述べることとし、内分泌疾患に関しては多くは述べません。
1.???? 血糖、血液ガス分析、アンモニアなどの基本的検査:もちろん保険収載されています。
2.???? 血中・尿中アミノ酸分析:保険収載されています。
3.???? 尿中有機酸分析:「代謝異常検査」で請求できるが、検査実施施設に制限がついています。
4.???? 血中アシルカルニチンプロフィール分析:「代謝異常検査」で請求できるが、検査実施施設に制限がついています。
5.???? 酵素サイクリング法による血中・尿中カルニチン2分画測定:保険収載されていません。
6.???? 酵素活性測定:「遺伝学検査」で請求できる。検査提出施設、検査実施施設ともに制限がついています。
7.???? 遺伝子検査:「遺伝学検査」で請求できる。新生児スクリーニングの対象疾患はすべて保険収載されています。検査提出施設、検査実施施設ともに制限がついています。
8.???? タンデムマスによる線維芽細胞などの脂肪酸代謝能の検討:保険収載されていません。
保険点数とは:病院はこれらの検査を行ったときに、この保険点数に10円をかけたものが収入になります。支払いをどこがするかは加入している健康保険の種類により異なります。さらに指定難病、小児慢性特定疾患、乳幼児医療助成制度などの補助により異なることになります。
アミノ酸分析は昔から保険収載されており特にその実施には注意事項は記載されていません。保険点数は1,212点です。
GC/MSによる尿中有機酸分析とタンデムマスによるアシルカルニチンプロフィール分析も保険収載されています。しかし分析を行う施設は保険医療機関であることが定められており、それ以外の施設で測定されたものは原則として保険適応になりません。つまり民間検査会社や衛生研究所等での測定は保険請求できないという意味になります。月に1回の請求が認められています。保険点数は1,176点です。
酵素活性測定は「遺伝学的検査」にて保険請求可能です。しかし厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に限り算定できます。当該検査の一部を他の保険医療機関又は衛生検査所に委託する場合は、当該施設基準の届出を行っている他の保険医療機関、又は関係学会の作成する遺伝学的検査の実施に関する指針を遵守し検査を実施していることが公表されている衛生検査所にのみ委託することとの規定が定められています。
遺伝子検査も酵素活性測定と同じ「遺伝学的検査」で請求できますが、検査提出施設、検査実施施設ともに同様の制限がついていることは上で説明しました。
「遺伝学的検査」を適応できる疾患は診療報酬点数 医科 D?006?4に記載されています。平成28年度の診療報酬改定で尿素サイクル異常症も請求できることになったので、新生児マススクリーニングの対象疾患は、いわゆる二次対象疾患を除いて、すべて遺伝学的検査が請求できることになりました。請求点数は3,880点すなわち38,800円です。この価格以内で遺伝子検査を行ってくれる施設はほとんどないので注意が必要です。遺伝学的検査は基本的には患者一人一生の間に1回しか算定できないので、酵素活性測定で保険請求を行うと遺伝子関連検査は保険請求できないことになります。適切な理由があれば再度遺伝子検査を行なえることが平成28年度の診療報酬改定で認められています。遺伝カウンセリングは遺伝学的検査の説明を行うときに請求できます。月一回500点の請求が認められています。理解が不十分な時には再度の請求ができると理解されます。遺伝学的検査を行っていないときにはカウンセリング料も請求できないことに留意が必要です。
(出典:『タンデム通信』Vol6)
ガスリー法の名はPKUのスクリーニング法として1960年代に米国のRobert Guthrieが最初に報告したフェニルアラニンのBacterial Inhibition Assay(BIA)に由来します。その後、ロイシン、メチオニンなどのアミノ酸の半定量法としても応用され、1960年代から2000年頃まで世界中の新生児スクリーニング検査施設で使用されていた検査方法です。しかしながら、1990年代以降、タンデム質量分析計(タンデムマス)が普及し、2010年以降はアミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症の新生児スクリーニングの検査法の主流になっています。
したがってこれらの疾患の検査でタンデムマスを使用している場合は、「タンデム質量分析法(またはタンデムマス法)」と記載するのが適切と考えられます。
なお、新生児スクリーニングで乾燥濾紙血液を用いるスクリーニング全体を「ガスリー法によるスクリーニング」と記載していた時代もありましたが、混乱を招くため最近は使用されることが少なくなったようです。
まずcritical sampleで測定しなければ行けないのは、血糖、血液ガス、アンモニアを行って何に異常があるかを確認することですが、先生の質問はその次に行うセカンドライン検査をするときにサンプルが十分になくてどうしようかと言うことだと思います。乳酸、ピルビン酸は除蛋白液に入れる必要性からあとから悩む必要性はないのではないでしょうか?血液ガス検査で乳酸が測定出来ており、正常であればさらに詳細な乳酸ピルビン酸は必要ないと思います。低血糖であればやはりインスリンは確実に測定しておくべきと思います。少量の血清しかのこっていない場合は、尿有機酸、血液濾紙アシルカルニチン分析の結果をまって、その他の検査は後で出せばいいのではないでしょうか? 低血糖で尿アミノ酸が重要になることはないですし、血漿(血清でも可)アミノ酸はこれをしないと診断出来ないと言う疾患はほぼない思います。ただし高アンモニア血症があれば血漿(血清)アミノ酸測定の必要性はぐんとあがると思います。病態の理解には低血糖であれば、遊離脂肪酸、ケトン体分画のほうが有効です。??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????? 尿は状態によりますが、代謝不全をうたがわれて来院した最初の尿であれば、治療開始後でももちろんかまいません。疾患によっては発作時でないとはっきりしない疾患もあります。ですからcritical sampleでないから検査しないではなく、まずは発作時尿がとれなくてもその後の尿でも一度有機酸分析を行っておくことも重要です。最初の時点で本当に代謝異常を疑えば、輸液等の処置後早期にカテーテル入れてでも尿はとるべきです。少量でも検査施設に相談すれば行ってもらえると思います。血液サンプルは治療でグルコース入れだしたら、血糖が評価出来ないのは当たり前ですが、インスリンなども難しいと思います。輸液でグルコースを入れると遊離脂肪酸も比較的早く低下し、輸液後の検体では遊離脂肪酸/ケトン体比が低下します。しかし検査しないよりははいいと思いますので、点滴開始20分後とかちゃんと状況を記載して相談してもらうのがいいと思います。どれだけ経ったら価値がなくなるかは難しいですが、20分なら大丈夫と言うより、ちゃんと輸液前にとると言うことが重要でしょう。せっかく検体をとっても、同じ日の何時の検体かが判らなくなったり(どれが一番最初だったのか後でわからなくなる)、室温放置したりしてしまわず、早めに冷凍庫等に保管することも重要と思います。
FIA-ESI-タンデム質量分析では、EDTA.、ヘパリンなどの抗凝固剤はフリーカルニチン、アシルカルニチン測定値への影響はないと報告されています。しかし、誘導体化法によって測定している場合には、EDTA採血によって長鎖アシルカルニチンの一部が高値になることがあります。可能であれば、新生児スクリーニング検体と同様に抗凝固剤なしで採血してスポットした検体を用いることが望ましいですが、すでにEDTA採血でろ紙にスポットされた検体があるのであれば、そのまま測定を行ってもよいと考えられます。ただし2歳児ですので基準範囲が新生児と異なる場合があることから判定は慎重に行う必要があります。また、低血糖の鑑別とのことですので、脂肪酸酸化異常症の診断目的の場合には、CPT-2欠損症、VLCAD欠損症、三頭酵素欠損症では患者であっても異常値を示さないことがあります。
専門医師と相談のうえで、血清を用いたアシルカルニチン分析や尿有機酸分析を行って慎重に判定する必要があります。
ご質問と直接関係はありませんが、新生児マススクリーニングにおけるDELFIA法による測定では、EDTA採血後に濾紙にスポットした検体を用いるとTSH、17-OHP等で偽陽性、偽陰性になることがあります。そのためEDTA採血についてのお尋ねがあったものと思われます。
1)発作時のアシルカルニチン/フリーカルニチンの比の上昇があるかを確認し、タンデムマス分析によるアシルカルニチンプロ フィールの検索を行います。また間欠期(元気な時)のカルニチン分画の測定を行います。
2)低血糖発作時(アシルカルニチン上昇時)の尿有機酸分析は診断的意義が大きいです。
3)著明なケトーシスを伴う場合は、CPT-II欠損症をはじめとする脂肪酸酸化障害は考えにくいです。発作時の遊離脂肪酸および血中ケトン体分画の値により鑑別診断を進めます。
4)再度sick dayに遭遇したら血清および尿保存を確実に行 い、カルニチン測定(ろ紙および血清のアシルカルニチンプロフィール を含めて)尿有機酸分析、血中ケトン体分画測定を行います。乳酸値の臨床経過による変化も重要です。
5)エルカルチンの内服が必要かどうかは、上記のプロセスで診断を行った上で判断します。
絶食約18時間のデータからは、やや遊離脂肪酸、ケトン体の動員が多いかなと思いますが、ケトン血性低血糖症という診断でよろしいかと思います(Bonnefont, Eur J Pediatr, 1990; 150:80-85をご覧下さい)。可能性は低いのですが、糖新生障害であれば、高乳酸血症を認めたはずですので、血液ガスの乳酸値を御確認ください。
遊離カルニチン20 ?mol/L程度というのは、やや低めですが、それによって低血糖などの障害が生じるとは考えにくい数値です。この問題は、多くの小児科医が持っている誤解に起因しています。生化学的検査の基準値は「正常人の95%が当てはまる値」と理解して下さい。正常でも基準値から外れるひともいるということです。絶対的なものではなく、基準値から外れれば介入を要するかというと、そうでもありません。ある検査結果が、「患者さんの現在の問題となっている状況に関係している」かどうかの判断は、基準値から外れているということだけで考えるのではなく、総合的に考える必要があります。
この症例は、カルニチン値とは無関係の、通常のケトン血性低血糖症と考えます。これ以上の精査は不要ですが、絶食を避ける食事指導をしっかり行い、調子が悪いときだけ受診するのではなく、定期的な経過観察をきちんと続けるべきかと思います。通常状態を観察することによって、食事時間の問題や、患児の摂食量の少なさや偏食が見えてくることがあります。今回の遊離カルニチンがやや低めなのは、肉を嫌うなどの偏食があるのかもしれません。その場合、さらに指導が必要だと思います。
?代謝異常症(特に尿素サイクル異常症)の可能性は? 十分にあります、というより基礎に代謝異常症があると考えて鑑別疾患を進める必要があります。 鑑別疾患 1)尿素サイクルをはじめとする各種先天性の高アンモニア血症 2)先天性有機酸代謝異常症 3)高アンモニア血症の中でも、高インスリン高アンモニア血症 4)先天性脂肪酸代謝異常症 5)ミトコンドリア病 つまり、この段階ではほぼすべての先天代謝異常症は否定できないと考えられます。 タンデムでは診断できない有機酸、脂肪酸代謝異常症があるということも含めての鑑別です。
?必要な検査、 必須、至急なもの 1)血中アミノ酸分析、(尿中アミノ酸分析) 2)尿中有機酸分析 3)血中インスリン値 (4)血中フリー、アシルカルニチン2分画測定) 上記の検査で診断が不十分だった時 4)血清のアシルカルニチンプロフィール分析 尿素サイクル異常症は血中アミノ酸分析のみでおおよその診断がつきます。
?特殊ミルクやアミノ酸投与の必要性 いまはタンパク制限が必要と思います。 経口ができるようならば、母乳はタンパク量が少ないので推奨します。 アンモニアをモニタリングしながら徐々にタンパク量の増量を図る事になります。 投与カロリーは必要量を確保しなければならないので、輸液併用になるでしょうか。 その他の特殊ミルク、アミノ酸製剤に関しては診断がある程度ついたところでの判断になります。
いずれにせよ上に書きました、今すぐしなければならない検査の手配をすることが肝要です。 急性期の患者の事ですので、先天代謝異常症を専門とする医師に直接に連絡をとり、患者情報をリアルタイムに伝えて診断、治療に関しての意見をお聞きするのがよろしいかと思います。
血清(血漿)でのアシルカルニチン分析をお勧めします。ただし、対象児がタンデムマススクリーニングでCPT-1欠損症でなかったことを確認して下さい。CPT-1欠損症は濾紙血で診断します。<濾紙血でなく血清(血漿)である理由>?濾紙血分析では、血液の半分をしめる赤血球の中のアシルカルニチンも合わせて測ります。赤血球中には多量のアシルカルニチン(長鎖アシルカルニ値が主体)が含まれています。脂肪酸酸化異常症は特定の鎖長のアシルカルニチンの増加によって診断しますが、赤血球中に多く存在する長鎖アシルカルニチンについて、軽微な増加を病的なものと判定することは実際上難しいといえます。これに対して健常者の血清(血漿)では、長鎖アシルカルニチン濃度は極めて低く、患者検体での軽微な上昇でも判別が容易です。?赤血球膜でのアシルカルニチンの移動は遊離カルニチンでも緩徐であり、特に長鎖アシルカルニチンはあまり細胞外へ出ません。乳児期早期を除き赤血球寿命は3ヶ月程度であり、個々の赤血球は産生された直後のアシルカルニチン濃度を比較的長く保持します。水酸(OH)基のあるアシルカルニチンは特に赤血球内に保持されるようです。このため、発作時の濾紙血分析でのアシルカルニチンの変化は赤血球の存在により薄められ、変化の判定が難しくなります。血清(血漿)での分析では、刻々と変化するアシルカルニチン濃度をリアルタイムで評価できます。?短鎖アシルカルニチンは、血清(血漿)中では室温放置により容易に壊されて減少しますので、検査用には速やかに冷凍保存する必要があります。アセチルカルニチン(C2)が増加していないことが脂肪酸酸化異常症診断の判断根拠になりますので注意が必要です。<検査依頼出来る検査施設は?>血清(血漿)アシルカルニチン分析を実施しているスクリーニング検査施設もありますが、NPO法人タンデムマススクリーニング・普及協会(島根本部・福井支部)で保険請求できる外注検査として実施しています。
国内からの報告として下記の論文を参考にしください。
1) 日本マススクリーニング学会誌22巻1号29-34ページ,2012
2) 日本マススクリーニング学会誌22巻3号234-243ページ,2012
3) 日本マススクリーニング学会誌23巻3号288-293ページ,2013
検査済の濾紙血検体(DBS)の保存方法はその目的によって異なります。DBS中の測定対象物質は温度と湿度の両者の影響を受けることが報告されています。このため、検査を実施した証拠としての室温保存を除き、下記の目的で保存する場合はアルミパックに乾燥剤を入れて冷凍(-20℃以下)とすることが推奨されてます。
以下に保存の目的を記載しました。
1)ルーチンスクリーニング検査の精度管理試料として使用
2)スクリーニング見逃し例が判明した時に検査結果の再確認のために使用
3)精密検査対象者の確定診断の試料として遺伝子検査などに使用
4)新しいスクリーニング対象疾患のパイロットスタディなどの研究に使用
なお、採血時に保護者から検査済濾紙血検体が保存されること(期間を含む)を説明し、同意が得られていることが必須です。同意が得られていない場合は当該自治体の文書の保存期間に従って保存し期限に達したら廃棄しなければなりません。また、上記1)から4)の目的で検査済DBSを使用することも採血時に承諾が得られていることが必要です。
貴協会で示されている「24時間以内」という記載はガスリー法の時代の慣習が文言として残ったのではないかと推測します。ガスリー法のような細菌の発育を目安にするバイオアッセイでは検体に抗生剤が含まれていれば当然間違った結果を生み出すことになります。日本マススクリーニング学会では抗生剤投与との時間的関係について具体的な基準は定めておりません。抗生剤の投与経路、投薬量と半減期、新生児の在胎週数や体重など様々なファクターが結果に影響すると予想されます。
以上を考慮すると、「過去の抗生剤使用によるピバロイルカルニチン(ピバロイル基を有する抗生剤の場合)が検出されるか否か」が真の疾患の判定の際に重要です。したがって、タンデムマスによる新生児スクリーニングでは、児の出生から採血の時点までに抗生剤投与の既往があれば「抗生剤あり」と記載すべきです。また、2012年4月の「PMDAからの医薬品適正使用のお願い」にも書かれていますが、妊婦の抗生剤使用により出生児が低カルニチン血症を発症した症例もあります。合わせて産科医療機関へ情報提供ください。
1. 輸血後の適正な採血時期は輸血に使用した血液(全血か赤血球か)、輸血量と期間、対象疾患により異なります。
*Newborn Screening for Preterm, Birth Weight, Sick Newborn; Approved Guideline, Volume 29 No.24,CLSIには以下のような記載があります。
1) 濃厚赤血球の輸血では、対象疾患となっているガラクトース血症スクリーニングのボイトラー法では輸血された赤血球の影響を排除するため120日後に採血することとしています。早期に採血した場合、False Negativeとなる可能性があります。
2) 全血で血清を含む輸血では、血清中に含まれる酵素活性は数日から1週間は影響を及ぼすため、1週間以上経過してから採血することとしています。この場合も早期に採血した場合、False Negativeとなる可能性があります。
3) アシルカルニチン(フリーカルニチン、短・中・長鎖カルニチン)の赤血球及び血漿中の存在比は赤血球/血漿比はC2で4、C3で6程度と赤血球中に多く存在していました(未発表データ)。
4) CSLIの1)、2)の記載と3)のデータから以下のように考えます。
a)濃厚赤血球輸血の場合:輸血された赤血球中のC2,C3の影響が長期間残存するため、数週間後の採血でも赤ちゃんの正確なC2,C3の状態を反映しない可能性があり、輸血後1週間以降の血清検体による検査が推奨されます。
b)全血輸血の場合:濃厚赤血球輸血よりは影響は少ないと思われますが、血球成分も入っているため、a)と同様に輸血後1週間以降の血清検体による検査が推奨されます。
5)血清による測定が困難で濾紙血検体での再採血、検査以外対応ができない場合は、一定期間ごとに採血を繰り返して検査を実施することも考えられますが、赤ちゃんや保護者への負担・負荷が大きくなります。
なお、C3、C3/C2はプロピオン酸血症とメチルマロン酸血症の指標であり、採血を繰り返す場合は哺乳状況、症状なども考慮しながら実施することが重要です。
「常温で検体輸送」と記載した公的文書はありませんが、新生児スクリーニングで用いられているろ紙血検体については下記のような経緯がありますので参考にしてください。
・1962年ガスリー先生が開発された濾紙血検体を用いる検査では、その検体の輸送は郵便で送付できることが大きな特徴であり、郵送ですので常温になります。
・わが国で新生児スクリーニングが全国レベルで始まった1977年の厚生省からの通知文書にも「血液は代謝異常検査用濾紙に塗布し、あらかじめ配布された検体送付用封筒を使用し、早急に検査機関へ送付すること」と記載されていますが、郵送とは記載されていませんが、検体送付用封筒を使用し、早急に検査機関へ送付となっていますので、郵送と解していいのではないでしょうか。
それとは別に、採血後乾燥させて、時間をおかないで郵送する必要があるという意味でも、下記の資料もご参照下さい。
?検体の保存に関して?
乾燥濾紙血中アシルカルニチンの保存期間と保存温度による安定性の検討-有機酸・脂肪酸代謝異常症患者の検体を用いた検討-
新生児スクリーニングにおける低出生体重児(以前は未熟児と呼称)の2回目採血については、下記のように厚労省の課長通知、マススクリーニング学会の指針がありますので成績書記載文書、委託元の自治体との交渉の参考にしてください。
1)1987年に旧厚生省母子衛生課長(現:厚労省母子保健課長)通知「先天性代謝異常等検査における未熟児の採血について」があり、当時の広島県環境保健部長からの疑義解釈(「この検査事業については、すべての新生児に生後五?七日で採血し検査を行っているが、未熟児については、日本小児科学会雑誌に載っているように 体重が二・五 kg 以上に達するか又は、生後一か月のいずれか早い時点で再検査を実施することが適切である旨、小児科専門医からの指摘があつた。 未熟児に対する再検査の実施についての、国の見解をお伺いしたい。又、こ の再検査を補助対象として取扱ってよろしいか。」)について、「貴見(「未熟児の採血に関する委員会」の提案)のとおり取り扱ってさしつかえない。なお、未熟児に対する再検査については、従来から補助対象としているので念のため申し添える。」としています。
2)2006年に日本マス・スクリーニング学会が日本小児内分泌学会、日本未熟児・新生児学会が連名による「新生児マス・スクリーニングにおける低出生体重児の採血時期に関する指針」が示されています。この指針では従来の「生後1か月または体重が2,500g」に「「医療施設を退院する時期」が追加されています。
以上、詳細については添付のpdfファイルをご確認ください。
3)成績書への記載については、判定は「判定保留」としている施設、通常の「正常」・「再採血(検査で陽性判定)」・「精検」のいずれかを記載している施設があります。
いずれにしても、コメントとして「出生体重2000g未満で日齢4?6採血検体の結果のみでは異常値を示さないことがあるため、体重が2500gに達した時点、生後1か月または退院時のいずれかの早い時点でもう一度採血をお願いします。」のような内容を記載した文書も送付して、出生体重2,000g未満での2回目採血の勧奨をすることが重要です。
新生児スクリーニング用濾紙は、1977年に日本でスクリーニングが開始され時に当時の厚生科学研究班と東洋濾紙が共同で開発したものです。国内ではこの濾紙が新生児スクリーニング用濾紙として指定されています。
(1) 現在運用中の日本マススクリーニング学会のホームページにおいて、「ホーム > 学会活動 > ガイドライン/基準」の中で、「採血に関する基準 学会誌8巻増刊2号」として記載してあり、現在も有効なガイドラインとして運用しています。 http://www.jsms.gr.jp/contents02-03.html
(2) TMS普及協会として、その内容の文書を出すことは難しいです。
(3) 新生児マススクリーニングにおいて、濾紙自体を他社のものを利用している施設は把握しておりません。なお、特注品として、濾紙以外の複写部分の様式が異なったものを利用している施設はあります。
なお、日本国内で使用されている新生児マススクリーニングの試薬キットの標準濾紙血検体、内部精度管理用濾紙血検体がこの濾紙で作成されているので、検査のための試料として用いる新生児検体の採血でもこの濾紙を使用しなければ正確な測定値を求めることができないと考えられます。
1.回答:日本の新生児スクリーニングにおいては、検査実施施設の認定制度はございません。実施主体である都道府県・政令指定都市がそれぞれの判断で適切な検査施設に委託しています(自治体の検査機関;衛生研究所、自治体の医療機関の検査部門、健康・保健関連の公益・一般財団法人、民間衛生検査所など)。検査にかかる検査施設間差をできるだけ少なくして、日本のどこで生まれても同一レベルの精度のスクリーニングを受けることができるようにするため、日本マススクリーニング学会では2010年に「新生児マススクリーニング検査施設基準」、2013年に「タンデムマス・スクリーニング検査施設基準及び検査実施基準」をガイドラインとして提言し、新生児スクリーニング検査施設の標準化に努めています。
2.回答:日本マススクリーニング学会では「技術者研修制度」と「認定技術者制度」(ホームページ>技術部会関連>技術者研修制度をご覧ください)を設けて、研修会等の開催により基礎的な理論と技術の取得をしていただくとともに、学術集会、技術部会研修会などをとおして、新生児スクリーニング検査施設として必要な事項を理解していただけるようにしています。
3.回答:現在の日本の新生児スクリーニングの対象疾患は、内分泌疾患が2(先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症)、糖質代謝異常症1(ガラクトース血症)、タンデムマススクリーング対象疾患としてアミノ酸代謝異常症5、有機酸代謝異常症7、脂肪酸代謝異常症4、全体で19疾患となっています(自治体によっては二次対象疾患として6疾患を追加している場合もあります)。
新生児スクリーニング検査施設ではこれらをすべて実施することが原則となっており、検査にかかるコストとしては平成19年の厚生労働科学研究班の報告では年間検査数3万検体から5万検体で3,000?3,400円/1検体程度と試算しています。このコストは、検査試薬・キットばかりでなく、整備しなければならない測定機器、人件費、施設維持管理費なども含めて試算されています。
低出生体重児の再採血の基準は、タンデムマスが導入されてからも指針の基準で問題ありません。
ご質問の生下時体重が500gの超低出生体重児の場合、再採血のタイミングはこの指針の基づくと生後1ヵ月で行うことになります。
1. 先天代謝異常症の場合:栄養の摂取が十分であればスクリーニングに問題ありません。
2. 内分泌疾患の場合
・ 副腎過形成では正常(基準値以下)であれば問題ありません。再採血で基準値を超えた場合でも偽陽性の可能性もあるので、17OHP値や臨床状況によっては、精査とせず、時間をあけて再々採血とする場合もあります。
・ クレチン症では再採血が30週程度の場合でもTSHが正常であれば問題ありません。甲状腺ホルモンに対する中枢でのTSHの反応が十分でない可能性が考えられる場合は、個別の対応として甲状腺ホルモン(FT4、FT3)を直接測定します。
低出生体重児の2回目の採血については、学会HPに2006年のガイドラインが載っていますので、ご参照ください。
1.検体の保存方法(温度、湿度、保存用具;ビニール袋、アルミ製袋、乾燥剤の使用の有無等)や期間については、委託元の自治体の実施要綱及び要領または新生児スクリーニング検査受託契約書(以下、要綱等)に規定されています。指定検査機関ではその規定に基づいて、受付から検査中及び検査終了後の濾紙血液検体を保管することになります。従って、指定検査機関では自治体が規定する保管方法、保管期間をクリアできる保管設備を維持管理できるようにしておかなければなりません。
なお、自治体の実施要綱及び要領または新生児スクリーニング検査受託契約書に規定がない場合、指定検査機関が独自に保存方法と期間を規定していると思われますが、この場合は委託元の自治体と相談して保存方法と期間を要綱等に規定していただくことをお勧めします。
・自治体の定める実施要綱及び検査委託する自治体と検査施設間の委託契約の規定により対応は異なります。
・再採血検体で初回採血検体で陽性となった項目以外も測定することは、TSHや17-OHP が遅れて上昇する遅発型の症例も検出ができるという利点があるため、全ての項目を測定している検査施設が多くなっています。ただし、保護者には再採血検体では初回採血検体と同様に全ての対象疾患の検査も実施することを再採血時に説明しておくことが必要です。
1)出生後1か月までが新生児スクリーニングの対象と考えられますが、新生児スクリーニングにおける初回採血時期の範囲に関する全国の自治体の対応について正確なデータはありません。日本マススクリーニング学会ではすべての新生児で日齢4から6での採血を推奨し、出生時体重2000g以下の場合、?体重が2500gに達した時、?出生後1か月、?退院前のいずれかで2回目の採血を推奨しています。手術や特別な状況下で1か月以降に初回採血される例もあり得ますので、「初回検査」として受付するかどうかは予め自治体と取り決めておく必要があります。
2)TMSでのカルニチン・アシルカルニチンは日齢、月齢、年齢で変化することから、新生児期の基準範囲(カットオフ値)を1か月以降の子どものTMSの判定に適用することはできません。従って、新生児スクリーニング検体として受付して結果を主治医へ報告する場合、新生児期以降の基準範囲(カットオフ値)がないため検査データの報告のみとし、コンサルタント医師の意見もあわせて報告すべき考えます。
3)新生児期以降でもTMSを一度も受検していない場合、未治療の真の代謝異常症患者であれば、1歳過ぎでも明らかな異常値を呈する例も多くあることから、検査することには意義があります。この場合、主治医から依頼検査として臨床検査の一環として実施すると考えるのが適切と思われます。
濾紙血採血時の哺乳状況への対応について日本マススクリーニング学会を含む関連学会かららガイドラインは出ていません。
実際には、検査機関では”哺乳極めて不良”例は哺乳状況がよくなってからの2回目の採血をお願いしています。また、”哺乳不良”例では哺乳開始から72時間以上継続して哺乳されている場合は2回目採血の依頼はしていないのが一般的ですが、各検査機関で個別に対応しているのが現状です。なお、哺乳状態の判断は産科医療機関に委ねられておりますが、自治体によっては採血マニュアルを作成し、おおよその目安を定めているところもあります。いずれにしても、哺乳状況にかかわらず医療機関から送付された日齢4から6採血の濾紙血検体ではすべての検査対象項目の検査を行うべきです。これは哺乳状況に影響されない対象疾患の早期発見が重要なこと、タンデムマススクリーニング対象疾患では早期発症する疾患もあるためです。
哺乳後2時間以内での採血の場合、対象疾患によっては偽陽性(検査値が高値)となる場合がありますが、偽陰性(見逃し)となる可能性は極めて低いと考えられることから、医療機関の方針で哺乳の間隔を2時間以上あけることが難しい場合は、日齢4から6での初回採血を哺乳時間に関係なく実施してもよいと考えます。
日齢4とは生まれてから96時間以降となりますので、これよりも早く退院される場合は、退院時に初回採血を行い、10日目の来院時に2回目の採血を行うことをお勧めします。 なお、これはTMSばかりでなく、従来から実施されているスクリーニングにも適用されます。
理由:
?日齢4よりも前に採血された濾紙血液検体では対象疾患によっては偽陽性となる可能性が高いため(先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症)。
?10日目が初回採血の場合、早期発症の可能性のある疾患(先天性副腎過形成症、ガラクトース血症?型、アミノ酸・有機酸:脂肪酸代謝異常症の一部)では検査の実施が遅すぎて検査結果が発症前までに間に合わない場合が想起されます。
医療機関で濾紙採血が行われて、その検体が検査施設に届いて受付した時点で21日(3週間)が経過しています。3週間の経過中に濾紙血検体(DBS)がどのような環境(温度、湿度)で保管されていたかが不明であり、スクリーニング対象疾患の測定物質の分解などにより正常レベルまで低下している可能性もあります。
このような検体を受付けた場合の対応は、自治体の実施要綱及び要領の規定により異なりますが、採血から受付までの期間が短い施設では1週間、長い施設でも2週間を超えた場合、不備検体として2回目採血を依頼しています。
日本マススクリーニング学会では、タンデムマススクリーニングの検査施設基準及び検査実施基準(日本マススクリーニング学会誌23巻3号)において、DBSは採血後24時間以内の検査機関への送付することとしています。なお、年末年始、連休等の対応は自治体と指定検査機関が受付と検査体制を産科医療機関にあらかじめ知らせておくことになっており、それぞれの地域で自治体、指定検査機関、産科医療機関の緊密な連携体制を確立しておく必要があります。
DBSの採血後24時間以内の検査機関への送付が必要な理由は、濾紙血に含まれるスクリーニング対象疾患の指標物質は採血から検査までの時間、温度、湿度により変化するためスクリーニング検査で偽陰性や偽陽性となる可能性があること、対象疾患によっては検査結果の報告の遅れにより確定診断と治療開始の遅れにより十分なスクリーニングの効果が得られないことなどです。
・母体COVID-19感染の疑い例の場合、児の検査は予定通り出生後5日目をめどに検査をすることが推奨されます。
・実際の対応としては、以下の2つのパターンが考えられます。
1.医師がPCR対象者と判断し、妊婦のPCRを行った場合:a.陰性の場合は通常の取り扱い、b.陽性の場合は、陽性患者と同様の取り扱う。
2.経過観察期間中に分娩となりPCR未実施の状態の場合:
PCR検査が未実施のまま、分娩に至った場合においては、頻度は低いものの感染が否定できないため、濃厚接触者の場合の検体は陽性患者と同様に取り扱いされることが安全管理上、望ましいと考えられます。
日本マススクリーニング学会より2020年4月に「新型コロナウイルス感染妊婦(COVID-19 陽性妊婦)、あるいは感染疑いの妊婦から出生した児の新生児マススクリーニングろ紙血の取り扱いについての暫定指針」がでております。HPから見ることができますので、そちらをご参照ください。
日本マススクリーニング学会より2020年4月に「新型コロナウイルス感染妊婦(COVID-19 陽性妊婦)、あるいは感染疑いの妊婦から出生した児の新生児マススクリーニングろ紙血の取り扱いについての暫定指針」がでております。HPから見ることができますので、そちらをご参照ください。
ガラクトースの代謝においてガラクトース-1-リン酸はガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)を触媒として、UDP-グルコースとの転移反応により、UDP-ガラクトースとグルコース-1-リン酸へと代謝されます。この代謝経路ではGALTに加えてグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)、フォスフォグルコムターゼといった3種類の酵素反応が連続して生じ、最終的にNADPHが発生します。このNADPHを蛍光反応で測定する方法がボイトラー法であり、新生児マススクリーニングの場合では通常、GALT活性の有無の判断に利用します。
今回の検査ではボイトラー法が陽性(通常、“活性なし”を陽性ととります)にも関わらず、ガラクトース、ガラクトース-1-リン酸の上昇を認めないことから、ご指摘のようにG6PD欠損症を鑑別する必要がでてきます。
実は、ボイトラー法に最適なろ紙は数年前に製造中止となり、現在では代替ろ紙を使用している施設が増えています。この場合、以前のろ紙血と同様に検査を行うとボイトラー法の偽陽性が増える可能性が指摘されており、ろ紙に反応液をスポットする従来方法ではなく、マイクロプレートリーダーで蛍光強度を測定する方法を行っている施設もあります。もし従来法で検査されているのであれば、マイクロプレートリーダーでの検査でボイトラー法が正常活性となるかどうかをご検討ください。
なお、G6PD欠損症ですが、本疾患の小児ではボイトラー法が正常であった症例も、ボイトラー法陽性で診断された症例も報告があります。G6PD欠損症がどの程度ボイトラー法の結果に関するかの判断は難しいため、必要であれば酵素活性測定を検討してください。
検査機関では精密検査が必要と判定した場合、受診勧奨を行う機関へ即日報告することになっています。
精密検査が必要な赤ちゃんの保護者への精密検査医療機関への受診勧奨を行う機関は自治体によって異なりますが、標準的なケースでは自治体の市区町村の保健所/保健センターまたは赤ちゃんが生まれた産科医療機関の主治医、中核医療機関の医師、コンサルタント医のいずれかが該当すると考えられます。
精密検査の受診勧奨を行う機関からの保護者への受診日の指定については、精密検査医療機関とコンサルタント医師の指示により決定すべきですが、疾患によっては赤ちゃんの症状が出ている場合などは当日受診の場合もあります。それほど緊急性を要さない疾患の疑いの場合でも遅くても日齢14までには受診できるようにすべきです。なお、先天性副腎過形成症疑いの精密検査は日齢10までに行われることが望ましいとの報告があります。
先天性副腎過形成症(以下、CAHと省略)の新生児スクリーニングの検査法は免疫化学的測定法(ELISA法、DELFIA法、Multiplex Immunoassay法など)と液体クロマトグラフィー—質量分析法(以下LC-MSMS法と省略)を用いる方法が推奨されています。
ELISA法は測定対象物質である17-OHP の特異抗体と抗原抗体反応で競合反応させる17-OHP に酵素や蛍光物質を結合させて濾紙血中の17-OHPの濃度を測定するもので、大量検体を短時間で測定することができることから、CAHスクリーニング検査では最初の検査法(一次検査法)として推奨されています。
LC-MSMS法による17-OHPの測定は17-OHPのほかにCAHで増加、減少する関連ステロイド物質を測定することができ、特異性も高く検査法としては優れていますが、新生児スクリーニングのような大量検体を一度に測定する場合、検体数により数台のLC-MSMSが必要になるため、ELISA法などのイムノアッセイ法による一次検査で陽性と判定された検体(全体の3%程度)を対象として実施する二次検査法として推奨されています。二次検査法へのLC-MSMS法の導入により再採血率及び精密検査率を著減できるため陽性的中率が改善できるため、不要な再採血及び精密検査対象例を低減することが可能になります。
なお、国内の新生児スクリーニング検査施設(37)でCAHスクリーニングの2次検査法としてLC-MSMS法を導入されているのは2020年3月末現在で5施設となっています。
どの程度飲めていると良好かを数値で示した報告は少なく、日本マススクリーニング学会誌第10巻1号で市原らが産科医療機関を対象にした調査結果を報告しています。日齢4から6の哺乳量は8割の産科医療機関で100から170mL/kg/Day程度の範囲であり、「良」と判定した哺乳量は100から160mL/kg/Day、不良の判定は30から120mL/kg/Dayでした。
質問の新生児スクリーニング検査データの保存期間について、これまでに厚労省から発出された新生児スクリーニング関連の通知文書に記載はありません。また、日本マススクリーニング学会の新生児スクリーニング関連のガイドラインでも示されていません。このため、新生児スクリーニング検査データの保存期間は新生児スクリーニング実施主体である都道府県・政令市(以下、自治体)が実施要綱で独自に定めているのが現状です。また、外部検査機関に検査を委託している場合は、委託契約書に検査データの保存期間を記載しているのが一般的です。
検査データの保存期間の根拠としては、医師法第二十四条の診療録の保存期間5年、医療法施行規則第二十条の十の診療に関する諸記録の保存期間2年、健康診断業務関連では労働安全衛生規則第五十一条の保存期間5年、その他特殊な健康診断では最長40年保存などの規定があり、これらを参考にして規定されている自治体、検査機関もあると思われます。なお、自治体では公文書の保存期間を文書の重要度に応じて規定していますので、新生児スクリーニングの検査データも自治体が独自の判断で実施要領などに規定されていることもあると思われます。
質問にある「検査データが新たな疾病の治療研究に役立つ可能性なども考慮すると、どのぐらいの期間保存しておくのが適切か」ですが、検査機関で保存している検査データがどのような場合に利用されるかが重要であり、それに応じて保存期間をどの程度にすべきかを検討されることになると考えます。以下にその例を記載しました。
①新生児スクリーニングで偽陰性例(スクリーニングで正常と判定されたが、その後スクリーニング対象疾患と診断されるケース)が発生した場合、検査時のデータが残っていて、その検査が正しい精度保証システムのもとで行われ、かつ正しく正常と判定されていることを証明できることが検査機関のみならず行政にとっても重要になります。
②スクリーニング検査が確実に実施されたことの証明に使用可能
上記①、②は訴訟があった場合に有効なものと考えられます。
結論として新生児スクリーニング検査データの適切な保存期間に関する国内でのコンセンサスはなく、現状では自治体ごとに決めていただくことになります。保存期間の決定にあたっては、上記の医療関連の法令で定められた期間を参考にするか、自治体の文書保存期限に関する規定にもとづく方法が考えられます。
なお、質問にあった「検査データが新たな疾病の治療研究に役立つ可能性」については、現行新生児スクリーニング対象疾患の検査データが新たな疾病の治療研究に役立つ可能性はそれほど大きくはないと思われます。検査データの保存よりも、検査が終了した「濾紙血検体」の長期間保存により、その検体を使用した新たな疾病のスクリーニング検査法の開発とスクリーニング実施の妥当性評価などへの利用が重要になっています。
検査施設における濾紙血検体を受理する場合、採血後一定の期間が経過した検体を不備検体とする明確な決まりはなく、実施自治体と検査施設で個別に定めているのが現状です。
なお、日本マススクリーニング学会では、新生児スクリーニングとして産婦人科等の医療機関で採血された濾紙血検体は採血後24時間以内に郵送により当該自治体が指定する検査機関に送付することとしています(国際的なコンセンサスでもあります)。本邦の郵便事情から投函後2日から3日で検査機関に配達されることから、検査機関では最長でも採血後4日程度で受理できるものと考えられます。
また濾紙血検体中のスクリーニング対象疾患の指標となる物質や酵素活性は常温で徐々に低下するものがあり、検査の実施が採血してからの日数が経過するほど測定値に影響を及ぼし、偽陰性や偽陽性の原因になることも知られています。
さらに、対象疾患によっては新生児早期に発症する場合もあり、採血後速やかに検査機関が受理できる体制が不十分な場合、手遅れになる可能性もあります。
以上のことから、産婦人科等医療機関で採血された濾紙血検体の採血後の速やかな送付と検査機関での早期の受理と検査開始が重要です。
新生児スクリーニングにおける対象疾患の個別の検査では、各検査機関で使用する検査試薬、検査機器など違いによりその測定値に差が認められることから、日本マススクリーニング学会では全国一律の基準値を設していません。
このため、日本マススクリーニング学会では、「再採血基準値」、「要精密検査基準値」の設定は、各検査施設が実際に一定数の新生児濾紙血検体を測定し、統計学的処理を行い、できるだけ偽陽性、偽陰性が少なくなるように妥当な基準値を設定すること推奨しています。
日本マススクリーニング学会技術部会、NPO法人タンデムマススクリーニング普及協会が実施した全国39施設の平成29年度の全対象疾患合計の再採血率は平均値が3.02%、最小値1.2%、最大値5.5%でした。
貴県の再検査(再採血)が500/13,600=3.7%は全国平均を若干上回っており、再採血率が多いグループとなります。
新生児スクリーニングのために採血されたろ紙血検体のスクリーニング検査終了後の残余検体の使用については以下のように取り扱いが妥当と考えられます。
1)残余検体の使用が研究目的の場合、使用する機関(大学、医療機関、研究施設など)でその研究に関して「倫理審査委員会」の承認が得られていること、さらに保護者(両親)からろ紙血検体を新生児スクリーニング対象疾患の検査に加えて研究のために使用することについても同意が得られていることが必須です
2)残余検体の使用が、新生児スクリーニング対象疾患の精密検査対象となった赤ちゃんであり、残余検体が早期診断のための追加検査に必須の場合は、主治医から保護者へ説明をしていていただいて使用することについては問題ないと考えられます。
質問の「先天性サイトメガロウイルス感染症スクリーニング」に残余検体を使用する場合は上記1)に該当するものと考えられますので、1)に記載した手順を経ていれば残余ろ紙血検体の提供は可能と考えます。
タンデムマススクリーニングでは、全国的にアミノ酸測定値は従来のmg/dLからμM/Lへ単位を変更されている検査施設が多くなっています。単位の変更だけであり、全国的にもその傾向にあります。
タンデムマススクリーニングに関するガイドラインとして、日本マススクリーニング学会では検査施設基準・検査実施基準を学会ホームページに公開しています(学会HP>学会活動>ガイドライン/基準>タンデムマススクリーニング検査施設基準・検査実施基準)。この検査実施基準に「カットオフ値の設定とその検証」の項目がありますので参考にしてください。なお、カットオフ値の変更は検査施設のデータをもとに精密検査を行っている医療機関の専門医からの意見も聞いて実施すべきものと考えます。
http://www.jsms.gr.jp/contents02-03.html
札幌市のホームページによると、新生児スクリーニング検査終了後のろ紙血検体を「現行の新生児マススクリーニング検査や今後検査の対象となる可能性のある疾患の検査法の改良や開発のための研究」への利用のために、保護者からの書面による同意を得て10年間保存することとしているようです。
保護者への説明用パンフレット、検査申込書(スクリーニング検査の申込と検査終了後の検体の10年間保存の同意の可否の記載)の様式は札幌市衛生研究所ホームページに掲載されています。
なお検査終了後の検体委保存の同意書は、包括的な研究利用に関しての同意となっており、個別の研究利用では、検体の匿名化を行った上で利用することや個別の研究ごとに新たな同意書を取るなど、研究の開始前に札幌市衛生研究所倫理審査委員会の承認を得て実施されるようになっているようです。倫理審査委員会の審査内容についてはこちらに詳細に掲載されています。
我が国の新生児スクリーニングでは、初回採血を日齢4から6としており、検査結果の判定は再採血検査と即精密検査の2段階のカットオフ値を設定して行います。
1.初回採血検体の検査結果が即精密検査のカットオフ値を超えた場合は、速やかに精密検査が受診できるように関係機関と連携して手続きを進めることが重要です。
2.初回採血検体の検査結果が再採血検査のカットオフ値を超えた場合は、検査施設は速やかに再採血が必要であることを当該医療機関に報告し、医療機関はできるだけ早く再採血を行い、検体を速やかに検査機関に送付することが重要です。
なお、先天性甲状腺機能低下症では遅くとも日齢14までに再採血とのガイドラインがありますが、タンデムマススクリーニング、ガラクトース血症及び先天性副腎過形成症のスクリーニングに関してはガイドラインはありませんが、先天性甲状腺機能低下症よりも重篤で早期治療が必要な疾患が多いことから、採血をされる医療機関では検査施設から要再採血の連絡を受けたら速やかに採血を行って、検体を検査施設に送付することが極めて重要になります。
検査施設で再採血判定となった場合は速やかな再採血が推奨されていますが、ガイドラインで具体的な日数は示されておりませんが、下記の理由から検査機関から再採血の要請があった場合、産科医療機関での再採血は1から2日以内に実施されることが求められています。
理由:現在初回採血は日齢4から6であり、産科医療機関からの検査機関への濾紙血検体の送付が採血後24時間以内とされていることから、検査機関に検体が届いてから産科医療機関に再採血依頼が行われるのは日齢7から12前後になります。さらに、産科医療機関が検査機関から再採血の報告を受けて、すぐに保護者に連絡して採血が行われたとしてもさらに1日から2日を要することから日齢8から14となり、検査機関が再採血検体を受付て検査結果を得るのは日齢10から16なります。対象疾患によっては再採血後の精密検査が日齢10でも対応が難しいこともあることから、初回採血検体陽性による再採血例はで可能な限り早く採血が行われることが重要です。
*一部産科医療機関で、1ヶ月健診時に再採血を行っていることがありますが、これは非常に危険です。必ず再採血対象となった場合はすぐに呼び出して再採血を行うように、自治体内で徹底してください。
** 初回採血検体が検査不能の不適切な検体の場合は、検査施設から検体受付時にすぐに2回目採血の要請を行っていますが、この場合も産科医療機関ではできるだけ早く採血を行うことが求められます。
***出生体重2000g未満の児では初回採血は日齢4から6で採血し、出生後1か月か体重が2500gに達した時、退院時のいずれか早い時期で2回目採血が必須となっています。
新生児スクリーニングの対象疾患の内分泌異常2疾患(先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症)、糖質代謝異常症1疾患(ガラクトース血症)、タンデムマススクリーング対象16疾患(アミノ酸代謝異常症;5、有機酸代謝異常症;7、脂肪酸代謝異常症;4)の検査にかかる費用としては平成19年度厚生労働科学研究班の報告があり、年間検査数3万検体から5万検体のスクリーニングで3,000から3,400円と試算されています。この費用は、検査試薬・キットなどの資材費に加えて、検査に必要な測定機器などの備品、人件費、施設の維持管理費なども含めて試算されています。
なお、詳細については厚生労働科学研究「わが国の21世紀における新生児マススクリーニングのあり方に関する研究」平成18年度総括・分担研究報告書の「新しい新生児マススクリーニング体制に関する研究:新生児スクリーニング検査施設基準の検討 ?新生児スクリーニングの検査費用と検査施設規模?」をご参照ください。
日本マススクリーニング学会技術部会が、毎年1回、全国の検査施設の新生児スクリーニング対象疾患の再採血率や精検率等を調査し、その結果を全国集計一覧表などにまとめ、指定検査機関に報告しています。また、日本マススクリーニング学会のホームページの会員専用ページにも掲載しており、各自治体、指定検査機関でのカットオフ値の検証にご利用いただけるようになっています。
1)タンデムマススクリーニングにおいて、ピボキシル基をもつ抗菌薬が投与された新生児では、イソ吉草酸血症の指標であるイソバレリルカルニチン(C5カルニチン)が見かけ上高値となり、偽陽性の原因となることはすでに多くの報告があります。 現行のタンデムマス・スクリーニング検査では、本来の指標であるC5カルニチンとセフェム系抗菌薬(塩酸セフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシル等;以下ピボキシル系抗菌薬)のピボキシル基がカルニチン抱合により生成するピバロイルカルニチンと区別できないため、両者が合計された濃度として測定されます。このため、ピボキシル系抗菌薬が投与された新生児では見かけ上C5カルニチン高値となり偽陽性となることがあります。
2)C5カルニチン高値例のピボキシル系抗生剤投与による偽陽性例の低減対策としては以下の二つの方法が報告されています。
・採血される医療機関に対して新生児への抗菌薬使用の医学的な妥当性の検証や抗菌薬使用に関する注意喚起などを行って抗菌薬の使用を中止していただくこと。(まずはこちらをお勧めします)
・C5カルニチン高値例で二次検査としてLS-MS/MSによるC5カルニチンとピバロイルカルニチンの分別定量を行うことにより、ピボキシル系抗菌薬投与による偽陽性例を除外すること。
日本マススクリーニング学会のガイドライン(タンデムマススクリーニングの検査施設基準、検査実施基準 日本マススクリーニング学会誌23巻3号)で以下のとおり規定されています。
1.産科医療機関などで日齢4から6で採血された濾紙血検体は、3から4時間の乾燥後、採血当日又は24時間以内に検査機関へ送付することになっています。なお、年末年始、連休等の対応は、行政機関から委託されている指定検査機関が受付、検査体制を産科医療機関にあらかじめ知らせておくことになっていますので、それぞれの地域で行政、指定検査機関、産科医療機関の緊密な連携体制を確立しておく必要があります。
なお、濾紙血検体の採血後24時間以内の検査機関への送付が必要な理由は、1)濾紙血に含まれるスクリーニング対象疾患の指標物質が保管、保存によって低下するためスクリーニング検査で偽陰性となる可能性があること、2)検査施設での濾紙血検体の受付が遅れると検査開始も遅くなり、対象疾患によっては早期発症によりスクリーニングの効果が得られないことなどです。
2.指定検査機関での検査は、濾紙血検体の受付から24時間以内(ワーキングデー)に開始し、検査結果の報告は検体受付後1?3日(ワーキングデー)とされています。
マススクリーニング精査対象患者に対して行われる検査としては以下のものがあると思われますが、それぞれについて説明します。
1.一般的検査:血算、一般生化学検査、血液ガス分析など。これらはすべて保険対象の検査です。
2.特殊な検査:アミノ酸分析、尿中有機酸分析、血中アシルカルニチンプロフィール分析。
アミノ酸分析は保険対象検査です。
尿中有機酸分析、血中アシルカルニチンプロフィール分析に関しては、以下の要件のもと保険対象検査とされています。
この2つの検査はD010 特殊分析 8 先天性代謝異常症検査 1,200点にて請求できます。
注意すべきはこの検査につけられている注の部分です。
「保険医療機関内において、当該検査を行った場合に患者1人につき月1回に限り算定する。」
日本中どの医療機関においても患者から検体を採取することはできますが、その検体を分析する施設は保険医療機関でなければなりません。わかりやすく言うと検体をSRLなどの商業検査機関に依頼すると保険対象になりません。患者が受診した医療機関は1,200点(12,000円)保険請求できます。その医療機関は検査を行った施設に検査料金を支払うこととなります。
3.遺伝子検査:マススクリーニングの1次対象疾患に関しては、すべて遺伝学検査として保険対象となっています。D006?4 遺伝学的検査 3,880点 遺伝学的検査はどの検査施設に依頼しても問題はありません。
4.遺伝カウンセリング:D026 検体検査判断料における規定で定められています。
地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、区分番号D006?4に掲げる遺伝学的検査を実施し、その結果について患者又はその家族に対し遺伝カウンセリングを行った場合には、患者1人につき月1回に限り、所定点数に500点を加算できます。
TMSでは、乾燥濾紙血が4℃保存でも測定物質の一部が分解して検査データに影響を及ぼすことから、採血・スクリーニング時から長期間を経て再測定された際には、一部の疾患で偽陽性・偽陰性を生じる可能性が指摘されています。-20℃保存であれば、その分解による測定値の影響が抑えられますので、検査後の濾紙血を長期間保存する場合、理想的には4℃よりも-20℃かつ乾燥条件下の保存が有効とされています。濾紙血中のスクリーニング測定物質の安定性は保存方法やその期間だけでなく物質によっても大きく異なります。
根拠としては国内の報告として下記のものがあります。
1 山田健治ら:日本マス・スクリーニング学会誌 22(1): 29-34, 2012.
2 石毛信之ら:日本マス・スクリーニング学会誌 22(3): 234-243, 2012.
3 篠塚直樹ら:日本マス・スクリーニング学会誌 23(3): 288 -293 2013
なお、検査終了後のろ紙血検体の保存期間や条件は自治体によって異なっているのが現状です。検査後の濾紙血検体をどのくらいの期間、どういった目的で保存するかは各自治体の判断により異なりますし、採血時の新生児の保護者に対する、検査済ろ紙血の保存とその後の利用目的についてインフォームドコンセントも必要となります。検査済みの濾紙血検体の保存の目的が何かを明確にして、保存期間、保存環境(温度、湿度等)を決定する必要があります。